レポート

ガーデン・マネジメント---環境の時代における新たな仕組み

メンテナンスからマネジメントへ

庭園や緑地を美しく快適に保つには維持管理(=メンテナンス)が必要ですが、その費用は負担として否定的に受け取られ、削減の対象にされる傾向にあります。
しかし、発想を転換してみましょう。美しく手入れされた庭園や緑地は訪れる人々の心をなごませ、環境の魅力を高める大切な空間となり、結果として建物の付加価値も高まります。
手入れに費用をかけるのは負担どころか、環境に付加価値を付ける投資であり、それによる恩恵(見返り)も受けられる環境経営(=マネジメント)の一環だと考えます。
維持管理(=メンテナンス)から環境経営(=マネジメント)へ。ガーデン・マネジメントは、このような発想の転換から生まれた、日建設計の新しい庭園・緑地管理の仕組みです。

ガーデン・マネジメントの仕組み

庭園・緑地の維持管理方法は、緑地管理マニュアル等に基づいて、毎年繰り返すべき作業を固定して行われるのが一般的です。しかし、この方法では樹木の姿や形、草花の種類や特性、立地特性等までは規定されません。その結果、枝の強剪定により樹形が崩れて樹勢が衰えたり、植物の成長が過度に抑制され植物同士のバランスが損われるなどの弊害が起こります。
しかもその費用は管理作業項目ごとに積み上げるため、単年度の維持管理費として固定化され、何年続けても低減させることができません。まさに維持管理費が「維持」されてしまうのです。
新しい発想によるガーデン・マネジメントは費用対効果を念頭に、その庭園・緑地の完成の姿を提示し、それに必要な手入れは優先するが、逆に樹姿を崩す恐れのある剪定作業を省略し、不急の作業を中期計画に位置付ける合理的な仕組みです。具体的には次のように行います。

1. 定期点検(巡回)|これがポイントです

庭園設計者がオーナーズ・コンサルの立場で定期的に巡回して植物の生育状況を診断し、設計意図にかなった枝ぶりや全体の樹形バランス、草花類の繁茂状況、排水不良の有無など、一般的な維持管理マニュアルにはない設計者の視点に基づく手入れの具体的な方法を盛り込んだ処方箋を作成します。巡回頻度はできれば月に1回、少なくとも四季の変わり目に各1回、計4回は必要です。

2. 優先順位|A、Bを優先実行、C、Dは中期計画に位置付けます

作業項目と内容に優先順位を付け、各ランクに分別しながら柔軟に手入れを行います。
ランクA:1 ヶ月以内に行うべき緊急性のある作業
ランクB:1年以内の適期をみて行う作業
ランクC:3 ~ 5年周期で行えば十分な作業
ランクD:8 ~ 10 年周期でよい作業
作業項目をランク付けした処方箋の内容を、巡回点検報告と共に事業所の環境管理部局(緑化委員会など)に説明し、実行の承認を受けます。

3. ホームドクター化|何でも相談できるかかりつけ医です

実際の手入れ作業は、診断を行った庭園設計者が直接行うか、その指導のもとで専門技術者が行うようにして、かかりつけのいわゆるホームドクター化を図ることが重要です。これによって、きめ細かで無駄のない必要最小限の手入れを行うことができます。

4. 専任ガーデナーの派遣|成功の鍵を握る人材です

ガーデン・マネジメントの最大の特徴は、庭園設計者が選定した専任のガーデナーを定期的に派遣するシステムにあります。具体的にご説明します。
庭園設計の意図を十分理解し、設定され た庭園の将来の姿(管理目標)を念頭において剪定や土壌改良を行ってくれる専門技能者を専任ガーデナーとして選定します。
3年前にスタートした名古屋の例では、週 1日、年間48回の派遣で、手入れ内容をまとめた管理項目一覧表に従って、必要な作業を臨機応変に行っています。週1回訪れるうちに居住者と顔見知りになり、衰弱した観葉植物の手当てについて園芸相談を受けたり、子供たちから花の名前や果樹の実る時期を聞かれたり、3年目に入った現在では、すっかり頼りにされる「緑のお兄ちゃん」になっています。

5. 投資の回収(収穫)|庭からの楽しみを受け取れます

見頃を過ぎた花を活用してドライフラワーやアロマテラピーを楽しんだり、繁茂して間引きが必要になったハーブや果実を採取してキッチン・ガーデニングを楽しむなど、ホームドクターと専任ガーデナーの手ほどきを受けて、さまざまに庭の楽しみを味わうことができます。
それまで負担に感じていた庭園管理費が、 このように形を変えて投資の回収ともいうべき収穫となってリターンされるのです。

6. 新たなコミュニティ形成の触媒役|新しい交流の形です

こうした活動を通じて多くの初対面の人々やファミリー達が、ガーデン・マネジメントという共有の舞台の上で一体感を味わいつつ交流を深め、新たなコミュニティ形成の輪に加わっていくことでしょう。

森山 明

●分譲マンション「マンション・メリア」(名古屋市)での取り組み

▲1: 中庭。裸足で遊べる安心の中庭は、居住者にとって大切な共有の財産となっている。(上段)
▲2: 中庭の雑木林。子供たちは家でゲームをするより、この自然の庭で友達と生き生きと遊んでいる。(左)
▲3: 中庭・モミジの回廊。あえて剪定しないことで、自然の樹姿の美しさを堪能できるようになる。(右)

▲4: 中庭のアジサイ。剪定を控えて大きく育てるとの景観を演出することができる。(左)
▲5: 中庭・ハーブの小路。住人は自由にハーブを摘み取って、フレッシュハーブティーを楽しむこともできる。(右)

▲6: 専属ガーデナーの佐藤氏。彼のトレードマークともいえる出で立ちは、住民たちにはおなじみの光景であり、頼りにされる存在となっている。(左)
▲7: 中庭のシャクナゲ。毎年春には敷地全体があでやかな花色に覆いつくされる。(中)
▲8: 中庭・花かん木類混植。雑草だけを注意深く抜き取ると自然の雰囲気を生み出すことができる。(右)

●大規模建築での取り組み

▲9:「フジテック Big Wing」(滋賀、2006年竣工)正面エントランス。さわやかなエントランス景観は、月1回の巡回点検を行って実現している。(左)
▲10:「アサヒビール神奈川工場」(安藤忠雄建築研究所と共同設計、2002年竣工)。広大なランドスケープ景観は、月1回の巡回点検によって育成されている。(右)

*出典は日建設計— Quarterly 2008 Winter-NIKKEN SEKKEI <a href="pdf/0236.pdf">こちら</a> 
(PDF5.13MB)。
(I-B-010)

¶:写真撮影 森山明

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