レポート

渋谷の「新たな物語」
 建築を見て

都市的スケールの公示
東京メトロの副都心線が池袋から渋谷まで開通したとき、渋谷の「新たな物語」が立ち上がった。忘れられがちな渋谷駅東口を、都市の物語に参加させる新たな試みである。副都心線の渋谷駅コンコースから地上にあがるエレベーター周囲の仕立ては、開通時点では誰の目にもオーバースペックに思えた。しかし、それは前奏であり序章だった。容積率1,370%、これまでの一帯とは比較にならぬスケールの「渋谷ヒカリエ」が出現した時、そのスケールで都市を再起動させる動きが形をとったのである。
 4つの巨大なボリュームを積み重ねた渋谷ヒカリエは、印象的な透視図をひとつのアイコン※としている。イエローを基調にピンク、ブルー、グリーン、オレンジを配したカラフルなもので、1930年代ニューヨークのアール・デコの摩天楼を意識して、各ボリュームの壁面を塗りわけることにより、この巨大な高層ビルの構成をひと目で把握させる仕立てだ。その発するところのメッセージは「これからの東口一帯を再構成するにあたっての都市的スケールの公示」であろう。

文化の重心
戦後の文化状況において、なにも渋谷駅東口は手をこまぬいてきたわけではない。いや、むしろ積極的な役割を演じてきた。渋谷ヒカリエの主要なオーナーである東急電鉄は、渋谷が昭和初めにターミナルとして発展する初期段階では「東横百貨店」の設計を渡辺仁に、戦後も「東急文化会館(渋谷ヒカリエの敷地にあった)」を坂倉準三に委ねた。いずれも当代随一の建築家の起用である。
  前者には演劇のための「東横ホール」が開設され、昭和40年代には三之助ブームの火付け役をつとめ、歌舞伎再興に貢献した。後者の複数の映画館とプラネタリウムも、若者や子どもたちの人気を博し、そうした文化発信が渋谷を若者の街とする出発点となった。それが1970? 80年代にパルコを中心とする公園通り側に「文化性」を奪われ、東急自身、やはり公園通り側に「Bunkamura」を開設したこともあり、東口は脇役に甘んじてきた。
 渋谷ヒカリエは、そうした渋谷の「文化の重心」をもう一度、再構成する意欲に満ちている。ともすれば、東口の狭苦しい広場に、天を突くような高層ビルはスケールアウトのように見える。いや定着した現在の構図を一気に打破するには、高さ182メートル、34階の巨大施設が必要だと、施主も設計者も判断したに違いない。それだけの規模の施設を、設計者は大づくりな4つのボリュームの積み重ねに仕立て、それをひと目でわかる外観構成とした。

新たな渋谷駅東口像へ
建物のボリュームは、グランドレベルから「物販施設」と「飲食と工房的なスペース」が積み上がり、その上が「ミュージカル専用劇場」、一番上が「オフィス」となっている。この単純ともいえる「機能」のざっくりした積層は、都市再起動にあたっての「スケール宣言」なのだろう。戦後の混沌とした小ビルの集合ではない、新たな東口建設のメッセージがそこに開陳されているのである。
 「東急シアターオーブ」と命名されたミュージカル専用劇場は、ブロードウェイからの来日公演を想定しており、クラシック音楽の大ホールと中規模劇場から成る「Bunkamura」とは一味違う、東急の文化発信の中核となる施設と位置づけられている。
 地階から「アーバンコア」と呼ばれる、半屋外のエスカレーターの昇降空間を経由して11階の「スカイロビー」に到達する。この昇降も、渋谷にはなかった都市スケールの体験だ。こうした空間構成を介して、新たな東口像が想定通りに構築されていくのか、渋谷ヒカリエに託された期待は大きい。
※─ 参照URL http://www.hikarie.jp

松葉一清|建築評論家

New Chapter in the “Shibuya Story”

▲スカイロビー

A new chapter in the history of Shibuya began with the completion of the Tokyo Metro Fukutoshin subway line linking it to Ikebukuro, another major Tokyo sub-center. At first, the design device surrounding the elevators rising from the Fukutoshin line Shibuya station to ground level looked out of place. But that was just the prologue to the emergence of a new landmark in the city. Conceived on a scale incomparably larger than the buildings around it and with a plot ratio of 1,370 percent, Shibuya Hikarie sends a clear statement that the reconstruction of this East Exit zone will be on a whole new level of scale.
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Center of Cultural Gravity
In the post-World War II cultural life of Shibuya Station, the East Exit area played an active role. Even before World War II, in the 1930s, with development of the terminal of its private railway there, Tokyu Corporation (Shibuya Hikarie’s main owner) hired architect Jin Watanabe to design the Toyoko Department Store (today Tokyu Department Store). After the war it alsocommissioned Junzo Sakakura to design the Shibuya Tokyu Bunka Kaikan that stood on the site where Shibuya Hikarie stands today. Watanabe and Sakakura were top-notch architects of their time.
     The Toyoko Department Store, with its adjoining Toyoko Hall, set off the so-called “Sannosuke Boom” (in the latter half of the 1960s) contributing to the postwar revival of kabuki. The Bunka Kaikan, with its planetarium and multiple movie theaters, was a popular attraction for young people and children, and from that time Shibuya became a gathering place of the young. In the 1970s and 1980s, however, development of the Koendori
(northwest) side of the station centering around the Parco Department Store drew the cultural center away from the east side. Then Tokyu Corporation itself opened the “Bunkamura” cultural and entertainment complex on the Koen-dori side in 1989, and for a long time after that, the east side of the station remained out of the limelight ?nearly forgotten.
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Toward a New Image for the Shibuya East Exit
Shibuya Hikarie is bursting with the ambition to once more shift the cultural center of gravity in the Shibuya area. We can imagine the owner and the designers concluding that a massive, 182- meter high, 34-story facility was indispensable to break out of the old urban order there. The four box-like parts stack up its functions?retail shops, then restaurants and workshop/craft space; above that a theater for performance of musicals, and at the very top, offices?into a massive volume that declares the postwar era of small clusters of heterogeneous buildings is over.
     The Theatre Orb, with its stage designed especially for musicals, envisioning performances of Broadway companies invited to Japan, makes Shibuya Hikarie a center for disseminating culture of a character quite distinct from Bunkamura, which is built around a large hall for classical music and medium-sized theaters.
     The “urban core”? rising from underground through the semi-outdoor space of the escalator wells and up to the Sky Lobby on the 11th floor? affords an experience of scale not to be found anywhere else in Shibuya. Will spatial compositions like this lead to the fulfillment of the much-anticipated new image of the East Exit area? High hopes indeed are invested in Shibuya Hikarie.

Kazukiyo Matsuba | Architecture critic

▲東急シアターオーヴ内観。オーヴとは「球体」を意味する。

▲9階のホール。

*出典は-「NIKKEN JOURNAL 11/2012 Summer」より こちらこちら

(O-J-008)

¶:写真 Photography|大野繁[メディア・ユニット]/Shigeru Ono [Media Unit]

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