New Horizons in Structural Design April, 2008
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18FACT NIKKEN SEKKEI    構造デザインの最前線自由な形態と構造デザインコンピュータの進歩とともに、以前には考えられなかったような自由な形態の建築を設計することが可能になってきました。北京のオリンピックスタジアムはかなり極端な例として今後議論を呼ぶものと思われます。また中東ドバイにおいてもあらゆる形態の建築が提案され、いわば何でも許される状態と言えるでしょう。こうした時代にこそ、私たちは構造設計者としての理念を明確にすべきだと考えています。地震力を受けもつインナートラスチューブ名古屋駅前に建つモード学園スパイラルタワーズは、「デザイン・コンピュータ・医療の3つの学校の学生のエネルギーが絡まりながら上昇するイメージ」をコンセプトとして、タワーが螺旋状に絡まる形態に特徴があります。階段室やエレベータシャフトなどのコア周りのウィングと呼ぶ3つの教室群が、上階へ行くにつれて回転しながら縮小して取りついています。回転中心がずれていることから、建物の外観は生物的な曲面を描いています。「捩れた建物は地震のときにどんどん捩れてしまうのではないか」といった疑問を持たれる方も多いと思います。実はこの建物は軽快で特異な形態の外観とは裏腹に、建物中央コアに非常に剛強な筒状の構造を設け、いわば大黒柱として確実に捩れや地震から建物を守るシステムを採用しています。インナートラスチューブと呼んでいるこの筒状の構造はコア周りのコンクリートを充填した鉄骨の鋼管柱と鋼管ブレースにより、トラス状のチューブを構成し、必要な剛性および耐力を持たせて大地震時にも高い安全性を確保しています。合理的で簡潔な構造設計自由な形態のままに構造架構を当てはめ、コンピュータに解析をゆだねて柱梁などの部材を設計していくという方法も今日の技術では不可能ではありません。しかし建物の形状に惑わされることなく、計画全体に見合った合理的な構造骨組を提案し、簡潔な構造計画を行うことこそ、構造設計者の役割だと考えられます。この建物では強固なインナートラスチューブと、二つの制振システムが地震エネルギーを効率良く減衰させることで、高い耐震性能を確保しています。粘性ダンパーを用いて効率良く地震エネルギーを吸収させる制振カラムを外周の26ヶ所に設置したほか、建物頂部変形が大きくなることに注目し、建物の1%の重量を屋上に設置したマスダンパーを採用しています。そして、このマスを転がり支承※と積層ゴムアイソレータ※により建物の固有周期に合うように調整することで、地震時に建物と逆方向に揺れ、鉛ダンパーで効率良く地震エネルギーを吸収するよう設計しています。仮に予想を超える大地震が発生しても粘り強く地震に抵抗するため、最も重要な部位である基礎およびインナートラスチューブには大きな耐力の余裕を持たせるように設定しています。構造デザインの新たな流れをつくる以上のような合理的な構造システムを採用することで、外周の柱は自由な形態を軽快な骨組みで表現することが可能になりました。スパイラルタワーズは見る角度によって姿を微妙に変え、優美でダイナミックな印象を与えています。3つのウィングの隙間から見えるインナートラスチューブは力強く、意匠と構造が互いに主張しながらうまく整合しています。このスパイラルタワーズは、複雑な形態の超高層建築における明快で合理的な構造計画を実現した、新たな構造デザインの流れをつくる建築であると確信しています。 小堀徹・吉江慶祐・山脇克彦モード学園スパイラルタワーズInnovative Forms and Structural DesignMode Gakuen Spiral Towers ※転がり支承  平面または凹面の上に、剛球やローラーを配置して荷重を支持し、地震時にはそれらが転がることで、地震の揺れを建物に伝えないようにする装置。 ※積層ゴムアイソレータ  建物と地盤(下部構造)を絶縁するための装置をアイソレータと呼ぶ。建物の荷重を支持し、建物の固有周期を伸ばすことで地震の揺れを建物に伝わらないようにする。ゴムと鉄板を積層した積層ゴムアイソレータなどがある。モード学園スパイラルタワーズ建築主 : (学)モード学園建設地 : 名古屋市中村区建物種別 : 各種学校・一般店舗構造 : 鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造階数 : 地上36階、地下3階延べ面積 : 48,988.96㎡竣工 : 2008年2月Mode Gakuen Spiral TowersClient: Mode GakuenLocation: Nagoya, JapanMajor functions: school, commercial spaceStructure: S, SRC, RCNumber of oors: +36, -3Total oor area: 48,988.96 m2Completion: Feb. 2008

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