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HIGHLIGHTS

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駅から変わるアーバンライフスタイル

中国・上海 上海緑地中心 / 徐汇绿地缤纷城 

設計代表 陸鐘驍、 設計主管 登内徹夫、 設計部 須賀博之

大都会に巨大公園ができた!?——中国の交流サイト(SNS)で話題の場所が上海中心部にある。地下鉄2路線の駅の上に2017年4月に全面オープンした「上海緑地中心/ 徐汇绿地缤纷城」だ。“公園”に見えるのは、商業施設の屋上緑化。上海最大の約2万㎡の規模を持ち、その中にはオフィスビル2棟とSOHOビルがそびえる。設計担当の須賀博之は「この駅を使うときは、コーヒーでも飲んでこう。そんな都市生活での憩いを提供できたらうれしい」と、顔をほころばす。

緑の谷を上へ上へと導く仕掛け

 10年先には市民の皆さんに愛される場所になるに違いありません——。計画当初から一貫した提案にクライアントは共感してくれました。
 上海の開発事業では、大きな箱を一つ、区域内にどんと構えて、その中に店舗を配置するのが一般的です。ところがここでは、別の手法を選択しました。地下鉄の駅を基点に、階段状の商業施設の屋上を緑化し、緑の谷をつくりました。駅近辺の方向からは斜面を見上げる形になるため、視線の先のほうまで見渡せます。駅の利用者を、上へ上へと、また区域全体にまで導く仕掛けです。
 駅の出入り口、バスターミナル、オフィスビルやSOHOビルのエントランスなど、人が集まる拠点は互いにあえて遠ざけ、それらを風が通り抜ける半屋外の街路で結び、沿道に店舗を配置しました。まちの中に、にぎわいを生み出す工夫です。
 まち全体を巡ってもらおうと、ビルのファサードにも気を配りました。自然換気ガラリや日射遮へい用のアルミフィンが、ビルを見る角度によって、重なり方を変え、外装の表情が変化します。ビルの向こうに回り込みたくなる「旋回」がコンセプトです。
 クライアントは、中国トップクラスの不動産会社である緑地集団です。その社名にちなみ、広大な緑の斜面を「緑大地」と呼んでいます。オフィスワーカーや駅・バスターミナルの利用者らは、「緑大地」を巡ることで、普段の都市生活の中でも、緑自然を身近に感じることができます。週末にわざわざ森林浴に出掛ける必要はありません。
 この施設を計画したクライアントにとって、多くの人を呼び込み収益性を確保することは、重要な目標でした。その目標に対して、私たちは先にも述べたように、従来と違う形で応えました。提案のポイントは、大きく2つです。

生活の豊かさという価値を生む

 一つは、ここまで紹介してきた「緑大地」です。地下鉄の軌道上には施設をつくることができないため、そこが高密に再開発される都市の、市民に愛される公園になれば、と計画当初から考えていました。そして、検討を進める中で、地下鉄の軌道上だけでなく、施設全体を自然と一体化し、緑の中にお店があるようにならないかという発想に至り、「緑大地」が生まれたのです。まさに公園に立ち寄るような感覚でこのまちに来てもらうことを目指しました。
 もう一つは、公共交通の利用を促す開発コンセプトとして日建設計が得意としている「TOD(Transit Oriented Development)」です。「駅まち一体開発」とも呼びます。駅を主役に、まちとの間をつなぐ施設をつくる考え方です。
 「緑大地」と「TOD」を軸とする提案の価値を、クライアントは理解してくれました。「緑大地」は屋上緑化ですから、収益を生む床を削ることはありません。収益性を確保したうえで、これまでの開発にはみられなかった生活の豊かさという価値を生み出そうとしたのです。
 現地を訪ねると、オフィスワーカーや地下鉄・バスの利用者はもちろん、イヌと散歩する人や「緑大地」を走り回る幼児など、多くの人でにぎわっています。日が暮れるころには、近くに住む人々も集まってきて、ここで時間を過ごします。
 皆さん、大きな箱の閉ざされた空間にあきあきしていたのではないでしょうか。「緑大地」と「TOD」の考え方で構成された空間づくりによって、緑豊かでにぎわいのあるまちを楽しむという新しい価値観を示すことができたように思います。
 日本に住む私たちは、いま当たり前のように、都市開発に生活の豊かさを求めるようになりました。開発と成長の歴史を省みる中で、そうした価値観へと変化してきたのです。私たちが経験の中で得たこの価値観を、いま急成長を遂げる中国の人々に伝えていくことは、時を経てもなお人々に愛され続けるサステイナブルなまちをつくるために役立つのではないか。上海緑地中心には、私たちのそういう想いが込められています。