Project Management in FocusApril, 2007
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プロジェクトマネジメントの現場 日建設計    FACT NIKKEN SEKKEI03分かりにくい日本の建設業界中分●村山さんは、証券アナリストとして建設業界や不動産業界を分析されていて、建築の外部からクールな目で見ていらっしゃいます。一方、安藤先生は、今の日本の建築生産システムが制度疲労を起こしているのではないかと、改革を提案されており、内在的に批判されてきたお立場です。まず、村山さんから見て、「日本の建設産業は特異」とお感じのところをお聞かせください。村山●今、日本の株式市場では海外投資家の活動が活発で、非常に重要な役割を果たしています。ですが建設産業は、海外投資家に理解してもらうという点で、苦労したセクターです。建設産業は、同業他社間の違いや成長予測の描き難さなど、すべての面で分かりづらく、分からないから買いたくないという投資家が多かったですね。日本の建設産業は上場している会社が多いにもかかわらず、資本市場からほとんど恩恵を受けていない産業だと思います。中分●では、どうして分かりにくくなるのかを安藤先生に。安藤●そもそも、高度成長が大きな要因になって日本の建設産業の近代化が進みました。当時は「箱をつくること」が最優先され、本来、売り手市場の建設のリスクは発注者側にあるのに、工期・工費・品質を守ることで、受注者側がそのリスクを引き取ってきたのです。そして、引き取ったリスクを担保する仕組みとして生まれたもののひとつが「設計施工」です。これらの仕組みが日本の建設産業が達成した独特の高度化におおいに寄与しました。ただ、設計施工では、段階を追って別の予算が登場するので、積算が実効的な意味を持っていません。となると、こうした受注サイドに偏ったイニシアティブが海外の目から見ると不透明で、不信感をかきたてるのではないかと思います。 一方で21世紀に入ると状況は全く変わりました。供給のほうが明らかに需要より多く、買い手市場では取引のリスクは常に受注者の側にある状況です。また、クライアントの形態も多様になりました。しかし、成長期に形成されたビジネスモデルを今なお取り続けているのが日本の問題ではないかと感じています。 ただ、状況が変化しても「現場は人材」です。日本の現場監督や所長は豊富な経験を持っているから、そこはまだ大丈夫なのではないか。むしろ、建設業のトップマネジメントの戦略が、見えにくいのではないかと……。村山●現場の力量でいえば、海外出張で各国のホテルやオフィスを回った経験から、日本の建築物は圧倒的にクオリティが高いと実感しています。けれど、おっしゃられた通り、状況は180度変わっています。発注者がSPC(※)や外資系になったりして、建設に関しては玄人ではない関係者に対しての説明責任を果たす義務が必要になりました。個々の現場クオリティが良くても、会社がつぶれてしまったらどうにもならないですし、日本の建設業は、環境不適応という状況に陥っているのではないでしょうか。(※)SPC:特別目的会社。資産の購入や不動産担保証券の発行などを行う会社。発注者の顕在化へ中分●建設業の良い部分を引き出して、明るさの感じられるような世界にしていくためにはどうすればよいでしょう。安藤先生は、建設産業のコアコンピテンス(※)は何かというご研究をなさっていますが、その観点から見て、どのあたりに処方箋があると思われますか。安藤●コアコンピテンスを持っていたとしても、それを誰に訴求すればいいのか分からないのが日本の問題です。というのは、日本ではサプライ側のプレゼンスばかりがあって、デマンドとサプライ間に良好な緊張関係がないのです。例えば、発注者が自分の希望を受注者へ述べたことはなかったんじゃないですか。全部受注側が汲みとって形にしていった。そうするとコアコンピテンスを持っていても、誰がそれを使うのかが見えないですね。 現在の状況を打開するには発注者に期待されるところが大きいというのが、僕の一つの結論です。マネジメントで言うと、自分の利益とリスクに関わることだから、自分でお金を出してマネジャーを雇えばよい。ところが発注者は、リスクと利益は受注者が担保してくれているという暗黙の了解があるために、コストが表面に出てくるものに対して、結果的にお金を出し惜しんでいることを自覚していない。中分●依存関係の中で分かりにくい構図ができてしまったのですね。その中でプロジェクトマネジメントは、分かりにくいものを分かりやすくしようというのが出発点ではないかと思います。安藤●私もそう思います。発注者の姿が顕在化してくると、プロジェクトマネジメントということを真剣に考えざるを得なくなるからです。 マネジメントという言葉は、日本では「管理」のイメージが強いのではないでしょうか。20世紀では「計画」と「実行」にフェーズを分けてしまう思考があって、「実行」に関わっているものが「管理」でした。しかし、実際には競争力のある産業では、計画と実行の段階が不可分なものとしてとらえられています。そうすると「計画」自体が、持続的な一連の行為としての「マネジメント」に包摂されてくる。「プランニングからマネジメントへ」というのが、20世紀から21世紀に至るときの一つのキーワードではないかと思います。(※)コアコンピテンス:技術・営業上の本質的な強み。マネジメントの意義とは中分●我々の業務では、マネジメントに最初に期待されるのはコストカットとタイムキーパーです。現場に入ると、発注者は喜びますが、建設関係者からは必要悪的な見方をされるケースが多いようです。マネージャーは冷徹で魅力的ではないと思われがちで、このままでいいのかと非常に気になるところです。領域は違いますが、分析して投資して、投資先が上手くいくように一貫した流れでマネジメントをされているお立場での村山さんのマネジメント感はいかがでしょうか。 創造的なマネジメントが明るい展望を開く安藤正雄[千葉大学教授]村山利栄[ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクター]に聞く聞き手● 中分毅[日建設計]日本の建築界で、プロジェクトマネジメントは正しく理解され、うまく機能しているのだろうか。不動産の証券化など建築を取り巻く状況が大きく変わりつつある中、何故、プロジェクトマネジメントが必要か、千葉大学の安藤教授と、ゴールドマン・サックス証券株式会社マネージング・ディレクターの村山氏に語っていただきました。

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