Project Management in FocusApril, 2007
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48FACT NIKKEN SEKKEI    プロジェクトマネジメントの現場 日建設計ここ10年余りの間に、不動産私募ファンド・REITなど不動産の保有形態の変化や、DCF法といった不動産評価手法・投資評価手法の変化など、不動産を取り巻く環境は大きく変わりました。それとともに、建築プロジェクトへの要求も、コストミニマムや投資回収期間の最短化、アカウンタビリティの確保など、より厳しいものとなっています。これらの社会情勢下、建築プロジェクトの新しい管理手法として、プロジェクトマネジメント方式を採用する企業が増加し、当社でも「+M(プラスエム)」のキーワードのもと、マネジメント領域を担当する組織の拡充や再編を行っています。一方で、プロジェクトマネジメントは、日本においては新しい概念であり、手法・技術の確立などにおいて未だ黎明期にあるといえます。ここでは我々がとらえている現在のプロジェクトマネジメントにおける課題とこれからについてご説明します。プロジェクトマネジメント技術の確立と展開建設プロジェクトの失敗事例は、結果的にはコスト・スケジュールのオーバーランなどとして現れますが、より本質的な失敗原因はチーム内部のコミュニケーションの不足やプロジェクトの組織体制の構築ミスであることが多いといえます。プロジェクトマネジメントにおいては、クオリティ・スケジュール・コストの3つの領域をコアなマネジメント領域と位置づけ、それを支える技術として人的リソースの調達、購買・発注戦略、コミュニケーションマネジメント、リスクマネジメントの4つを位置づけています。従来の設計監理技術においては、後者の4つの技術領域は前者のコアとなる3領域と比べ副次的な位置づけとなっており、そのためこの領域の技術的蓄積も浅いものとなっていました。プロジェクトマネジメントの立場においても、これらの領域、特にコミュニケーションスキルやリスクマネジメントスキルなどは経験に基づいた直感的な判断にて行われることが多いのが実情です。しかしながら今後はますます、この領域の技術確立と実践的な展開が重要性を増していくと考えられます。プロジェクトの前に建設プロジェクトにおいては、プロジェクトの執行(制約条件のクリア)には成功したが、プロジェクトそのものの評価は高くない。つまりプロジェクトスコープの設定が間違っていた事例も多く見られます。設計だけでなくプロジェクト全体に関与するプロジェクトマネジメント業務においては、この「スコープの設定」におけるミスジャッジは、最も大きな過誤となります。このミスジャッジを避けるために、当社では建物の事業用途別に、事業構造・事業背景に深い知識を持った専門家を社内にて育成するとともに、社外のコンサルタントとのネットワークを積極的に構築してきました。これらの動きは今後ともその傾向を増し、経営と建設をつなぐ立場としてより専門分野ごとに深化していくと考えられます。そして美しい街並みへ建設プロジェクトにおいては、かつての普請道楽的なプロジェクトは姿を消す一方、プロジェクトの経済的な評価手法が一般化し、ますます経済効果の側面ばかりがクローズアップされるようになってきています。一方、建物建設の際の、街並みとしての美しさや緑化による環境貢献などは、必ずしも現在においてプロジェクトの評価ファクターとして広く認知されているわけではありません。建築家の世界と経済の世界での共通言語が存在しない中で、建築やそのデザインの持つ力が経済の世界で適切に評価されない状況といえます。これからのプロジェクトマネジメントにおいては、「不動産経営」と「設計・デザインの領域」をつなぐ領域として、これらの建築の持つ社会的側面を適切に評価し、投資評価の中に組み入れていく努力と手法の確立が重要であると考えています。我々は、個々のクライアントの利益の最大化と社会全体の利益の最大化の両立を目指して努力していきたいと考えています。中谷憲一郎(日建設計)マネジメントのこれからThe Future of Project Management

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