Project Management in FocusApril, 2007
5/52

プロジェクトマネジメントの現場 日建設計    FACT NIKKEN SEKKEI村山●マネジメントの定義が、日本と世界では、ずれているのではないかと思います。マネジメントは、現場の執行とはある意味切り離れた存在です。なぜならここが癒着していると、フェアーな判断や方向性の決定ができないからです。会社に関わる様々な種類の人々の利益を最大公約数として追求するのが望む姿だという前提に立ったとき、会社がどう舵をとって進んでいくかを決定するのがマネジメントです。中分●日本では、何か方針が決まったら、方針どおり物事がうまくいくように管理するのがマネジメントだと思われているけれど、それはマネジメントとは言いませんよということですか。村山●マネジメントにその機能がないとは申しませんが、現場で進行を管理するようなマネジメントと、会社全体のマネジメントというのはちょっと違うのではないでしょうか。安藤●マネジメントの意味が大きいときは、ビジネスのやり方や生産システムそのもの、あるいはプロダクトを今までと違う方向に持っていこうというときではないかと思いますね。建設プロジェクトの場合は、規模が非常に大きいし、一回性を持ったものなので、本質的にそういう性格を持っているのではないでしょうか。マネジメントはアクティブで戦略的なもの中分●私が若い頃には「T字型人間論」というのがあって、Tの縦棒に当たる何かの専門分野を深くすると横棒部も分かるゼネラリストになる、一芸に秀でてこそ有能なマネージャーになるという論がありました。ですが本来、マネージャーとは横棒を見るスペシャリストなのだと思います。 ゴールドマン・サックス社の中では、マネージャーはマネジメントのプロフェッショナルだというはっきりした認知がありますか。村山●トレーダー出身、アナリスト出身など多様なバックグラウンドがあるので、ある程度T字型だと思います。ですが、マネージャーの育成には、トレーニングやメンタリングなどかなり緻密に行っています。特別なプログラム以外に、日常のコミュニケーションから意識的に育成する考え方というかカルチャーは、弊社の場合は非常に強いかもしれないですね。なぜかというと、いいマネージャーはその部下ひいてはチーム全体をより成長させ、利益に貢献するからです。安藤●アメリカのプロジェクトマネージャーの団体であるPMIが出している『PM Body of Knowledge(知識体系)』という本で、マネジメントエリア別にどういう知識や手法があるかを整理していますが、その知識はあまり魅力的に見えていないのですね。マネジメントはもうちょっとアクティブで戦略的なものではないかと思います。中分●教科書にはクリティカルパスを見極めて、そこに遅れが生じないよう管理しなさいと書いてあります。しかし実際はそうではなくて、突発事象が生じるとクリティカルパスは流動的になり、その状態でどう解決するかができなくてはなりません。村山●難しい状況の中で収益を上げるために、社員それぞれにモチベーションを持たせるとか、パフォーマンスに対してフィードバックするとか、最終的にはどうやって会社の価値を最大化するかに責任をもつことがマネジメントであって、細かく工程表を書くということではないですね。デマンド側の視点を取り込むプロジェクトマネジメント中分●今はどうアプローチしていったらいいのか、模索している時期だと思います。学校ではどうでしょう。安藤●大学では今まで、計画技術や生産技術といったサプライ側の知識を与えているに過ぎなくて、発注者のための建築教育をしたことがありませんでした。デマンド側の技術や知識をきちんと扱わないと建築の大学教育は成り立たないということを一部の人と話し始めたところです。中分●設計者は、本来はデマンドサイドにいる筈ですが、ともすればサプライサイドに傾きがちです。設計を始める前に、プロジェクトマネージャーなら当然行う「この建物は何年もたせよう」という議論すらしてこなかったように思います。学校教育もそうですが、マネジメントを通じて、デマンド側の視点をいかに取り込む回路をつくっていくか、それが重要だと思っています。村山さんは建築関連の仕事の中では、そういう配慮をされているのですか。村山●お客さんが何を求めているかを理解するのがまず第一だと思います。例えば今は発注者の多くがSPCで、SPCは、「何年もつのか」「メンテナンスコストは」「キャッシュフローはどうなるか」「IRR(※)はとれるのか」ということから入るわけです。しかし建物をつくる側の人たちは、ビルを建てたことによる利益やキャッシュフローに関しては恐ろしいほど認識が希薄ですね。だから建築を教える学校では、キャッシュフロー・ステートメントのつくり方と見方は教えてもらいたいと思います。 プロジェクトマネジメントとコンストラクションマネジメントという言葉が市民権を得つつあるというのは、まさに発注者側への説明という流れに応えたものではないかと思いますね。(※)IRR:内部収益率プロジェクトマネージャーがさらにプラスの価値を提案していく中分●経済行為としての建築物を見たときに、少なくとも発注者たちが何を気にしているかということを理解した上で、経済的に引き合う期間に合わせた提案をすることは必要条件ですが、もう一歩先として、さらに発注者が気付かないプラスの価値を提案していくことが大切です。プロジェクトマネージャーは創造的なところに踏み込んでいかないと、若い人がその職業に就きたいと思わなくなるのではないかと気になります。安藤●収益性の数字だけで動いているわけではないことを理解するのが重要だと思います。 単一の敷地の中に新しく投資をしてつくられるものを評価するのは簡単ですが、銀座や日本橋など既存市街地での開発は、単体の収益性だけではない価値が関係します。学生や若い人は、今あるものをリソースとしてどうすればよいかを考え始めていると思います。そのときに必要な知識は建築からはるかにはみ出て、いろいろな領域にある。人も分野でも広範なネットワークの中での協働となってくると、分野そのものをリデザインしていかなければいけないと思います。村山●不動産とか建設は内需セクターと言われていて、業界内の共通言語ばかりで説明責任がそんなにありませんでした。けれど1998年ぐらいから証券化が始まって関係者が増えてきて、プロジェクトマネージャーに説明を求める世の中になってきました。そういう意味では、日本の建設業界は初めて内の世界から外の世界への舞台に乗ったところなので、これからが面白くなるのではないかと思っています。中分●今日のお話だとキーワードは二つで、ひとつはサプライサイドからデマンドサイドへ。もう一つは、狭い世界で通じる言語で話していてはだめで、共感の得られる話し方を獲得していかなければいけないということ。逆にそれができたら、元々この世界はいいリソースがあるのだから、明るい未来の展望があると思います。今が頑張り時ですね。05

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です