New Horizons in Structural Design April, 2008
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26FACT NIKKEN SEKKEI    構造デザインの最前線異なる機能や構造形式を重ねる中間層免震構造「戸建住宅に代表される木造」、「マンションにみられるコンクリート造」、「柱の間隔の大きなオフィスやアリーナなどに用いられる鉄骨造」など、通常ひとつの建物には一種類の構造種別をイメージされると思いますが、ここでご紹介する建物では、複合用途の建物に複数の構造形式を上下に組み合わせて用い、適材適所の性能を発揮できるよう工夫しています。ここでは、これらの建物がどんな発想のもとに、どのような技術を採用して実現されたかご説明します。地震の揺れを低減する免震構造日本の建物は地震に耐えるという課題にいつも向き合わなければなりません。そのためには、建物の骨組みである柱を太くしたり、数を増やしたりするといった方法で対処することも可能です。また、柱と柱の間に入れる斜めの部材、筋交いやブレースを追加して建物を丈夫にする方法もごく普通にとられています。ただし、太い柱や筋交い、ブレースだけでは、機能やコストの面でクライアントの期待に応えられない場合もあります。さらに、非常に高い耐震性能を必要とするなら、まず考えられるのが免震構造です。これは建物と地盤を切り離して地震から建物を守るという構造です。つまり、建物と地盤の間に、地震時の建物の揺れを小さくする装置(免震装置)を介在させているのが特徴です。免震構造においては、免震装置を基礎と建物の間に設ける手法が一般的で、これを基礎免震と呼びますが、下部構造を非常に丈夫に設計すれば基礎と似た役割を発揮できると考え、下部構造と上部建物間に免震装置を置く構造形式が最近では徐々に見られるようになってきました。この方法は建物の中間の階に免震層を設けることから、中間層免震と呼ばれています。A Combination of Different Structural Styles中間層免震で広がる建物の自由免震装置は果たして建物のどこにあっても有効に働くのでしょうか。異なる構造形式の間に免震装置を設置したらどのような効果があるのでしょうか。この技術の発端は、こんな発想にありました。免震構造の発展形として、免震装置を建物の中間部に設けて耐震性能を向上させるだけでなく、免震層の上下で異なる建物の用途や構造種別、形状の変化に対応して機能向上という付加価値を高めたものが、ここでご紹介している技術です。その実例としては、汐留住友ビルや飯田橋ファーストビル・ファーストヒルズ飯田橋があります。建物中間階に地震の揺れを小さくする装置を設けると、上下に柱スパンが異なったり構造種別が異なったりする複雑な用途の建物を設計できるということになります。飯田橋の例では鉄骨造のオフィスの上にRC造の住宅を重ねています。この技術の大きな長所は、免震層より上の部分に対する地震の影響が小さくなるのはもちろんのこと、その部分が地震の際にうまく揺れることで免震層より下部の建物に作用する地震の力も通常の建物より小さくなることです。汐留住友ビルの大きなアトリウムもその効果をうまく計画に活かしています。構造の技術が耐震性向上だけでなく建築計画の自由度を高めるという一石二鳥の役割を担っています。とはいえ、大きく動く免震層を縦断するエレベータ等の計画に支障がないことを確認するといった課題もあり、個別検討が必要なことは言うまでもありません。耐震補強にも効果建物の高さ方向中間部分に免震装置を設置する技術は、ここで紹介した例のような大規模建築において、異なる構造種別が上下に合体するときに用いることができるだけでなく、既存建物の中間にこの仕組みを挟みこむことにより、建物の保存を前提とした耐震補強改修等においてもすでに採用事例があり、今後のさらなる発展が期待されます。 常木康弘・鳥井信吾・村上勝英アトリウムホテルオフィス上部構造免震層基礎構造下部構造Structure of Shiodome Sumitomo Building (cross section)汐留住友ビル断面構造高層部の大スパンオフィスと、ホテルからなる低層部は免震層を介して上下に重なる。An isolation layer connects upper of ce stories and lower hotel stories.Shiodome Sumitomo Building and Iidabashi First Building/First Hills Iidabashi汐留住友ビル&飯田橋ファーストビル・ファーストヒルズ飯田橋

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