─ 第15回 2022年4月6日15th Meeting, April 6, 2022─42.195kmのデザインと健康まちづくり“Marathon”-inspired Design and Healthy Community Building [講師]瀬古利彦DeNAアスレティックスエリート アドバイザーSpeaker: Toshihiko SekoAdvisor, DeNA Athletics Elite [ファシリテーター]小川貴裕日建設計総合研究所 上席研究員Facilitator: Takahiro OgawaPrincipal Consultant, Nikken Sekkei Research Institute 28今、日本でマラソンやジョギングをする人は1,000万人います。日本陸上競技連盟は10年後に、2,000万人まで増やしたいと考えています。走ることで健康になりストレスも発散して、ますます元気に仕事ができる。そんなことを考えて、マラソン大会を、みんながやってよかったと思える魅力あるイベントにするための仕事をしています。─自由に走れる場所日本は自由に走れるところが案外少なく、公園でも42km走れるような大きな公園はほんどないので、公道に出て走らざるを得ない状況になっています。舗装された固い道路は足に負担がかかり、故障につながることもあります。残念ながら一般の人が楽しく走る目的でつくられていません。 たとえばフィンランドでは、まちからちょっと離れた道路や人が歩く道の多くにウッドチップが敷かれているのでとても足に優しい。そしてどこにでもサウナや湖があって、走ったあとにどーんと飛び込めます。一方、日本には山や森もけっこうありますが、楽しく走れる環境とは必ずしも言えません。選手が練習でよく走る河川敷では、走る人、歩く人、自転車が交差してトラブルになったりします。みんなが安全安心に仲良く運動できるシステムや場所が必要です。ちなみに代々木公園敷地内の外側の林地帯には、私が35年かけて踏み固め、自然にできてしまった土のコースがあり、みんなが走っています。瀬古ロードと名付けてほしいけど、誰も付けてくれません……(笑)。─走る楽しさマラソンは、雨でも雪でも開催される競技です。選手時代、雪が降っても神宮球場の軒下で練習していました。選手はアーケードでもよく走ります。大阪には2kmぐらいのアーケードがありますね。全国アーケードマラソンを開催するというのはどうですか? 雨が降っても中止にならず、子どもも大人も走れます。商店街のビールやジュース、バナナで補給。アーケードをグルグル回って、観客と選手が一体になれる楽しいマラソン大会になるでしょうね。 マラソン選手になるのは簡単なことではありません。10年はかかります。まちづくりと一緒ですね。半年かけて1つの大会を目指し、練習のピーク時は1日40km以上走ります。走った距離は、ちゃんと結果となって表れます。食事は1日4,000キロカロリー。私の場合、甘いものはあまり食べません。何かあったら困るから、試合直前2週間は生ものも食べない。友だちにも会わない。苦しく、非効率的なこともあるかもしれない。しかし、それが最後の35kmからの苦しさを乗り越える力になります。 私は20年間で地球3周半分の距離を走りました。フルマラソンは走り切ったので、今は10kmぐらいがちょうどいい。走ったあとはビールがうまい。ランナーに「走ったあとの楽しみは?」と聞くと、だいたい10人中8人は「ビール」と言います。走ることに悪いことはひとつもありません。「人生はマラソンである」という言葉を耳にしたことがあると思います。42.195kmを走り切ることは容易ではありませんが、高い志と地道な努力を積み重ねれば、理想のゴールが見えてきます。本フォーラムでは、名実ともに日本のマラソン界を牽引してきた瀬古利彦氏をお招きし、走ることの魅力やその意義、世界と戦うための自己管理と新しいことに挑戦するマネジメント、ランナーから見たまちの良し悪しや、まちとスポーツが一体となるアイデアなど幅広くお話を伺いました。We often hear people likening life to a marathon. Making it to the goal—the 42.195-kilometer distance or whatever—is no easy challenge, but with high aspi-rations, careful pacing, and steady effort, we can suc-ceed. For this Forum, we invited Toshihiko Seko, who has been the driving force of Japan’s marathon world in name and fact since his record-setting marathon wins in the 1980s, to talk about the attraction and signifi-cance of running, the kind of self-discipline it takes to run against competitors from all over the world, and how to manage one’s efforts to take up new challenges. We asked him about what is good and what is bad in our cities and to talk broadly about his ideas for ways that communities and sports can come together.
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