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─ 第21回 2024年2月22日21st Meeting, February 22, 2024─サステナビリティの先へ─リジェネラティブデザインを目指してBeyond Sustainable, Toward Regenerative Design [講師]小堀哲夫建築家、法政大学教授Speaker: Tetsuo KoboriArchitect and Professor at Hosei University [ファシリテーター]水出喜太郎日建設計 常務執行役員 エンジニアリング部門統括Facilitator: Kitaro MizuideSenior Executive Officer, Head of Engineering Department, Nikken Sekkei24リジェネラティブな環境建築とは何なのか。僕は、「私たち」の建築であると思っています。建築というのは常にいろいろな人たちとつくり続けるものです。「私」もいながら、さらに「私たち」の建築だとみんなが思うようになると、世の中はどんどん良くなるのではないでしょうか。─生成するリジェネラティブの「ジェネラティブ」は、生成AI(人工知能)のまさに「生成する」という意味です。 生成AIは10年後には人間の10倍の知能をもつと言われており、そのときに、我々人間がどう進化しなければいけないのか。大阪・関西万博のパビリオン「クラゲ館」の設計では、いのちをテーマにみんなで考えています。環境がどんどん悪くなることの原因が人間だとすると、人間とはどうあるべきなのか。クラゲには脳がなく、植物と動物の間を行き来しており、一説によると、環境汚染が進むと増えると言われています。環境に影響しながら環境に揺らぐクラゲを、重要なキーワードとして捉えました。ランドスケープも大阪の雑草の種を拾ってきたり、粘菌が成長するアルゴリズムを使って設計したり、要はきれいに整っていない総体でつくろうとしています。会期後は全部再利用する、次の命を考えながらつくるサーキュラーエコノミーの建築です。─曖昧さリジェネラティブデザインは環境というテーマもありますが、人間の関係性みたいなものもあると思っています。 有沢製作所イノベーションセンター(2025年竣工予定)というプロジェクトでは、雪を利用しています。雪を屋根の上に載せ、溶かしながら地下で蓄熱する計画です。いろいろなワークショップや、状況、日建設計と話すなかで、生成的に出てきました。 ワークショップでクライアントや設計者がフラットにアイデアを出し合い、同じ目標をもって、立場が交ざっていって、関係性も組織体も曖昧になっていく。不思議なのですが、すごく曖昧な状態だけれども、そこでは今まで見たこともない概念やデザインが生まれてくる。そういう曖昧性がリジェネラティブには重要だと思います。建築設計のプロセス自体をクライアントと一緒に楽しみお互いが当事者になると、設計者の手を離れても、みんなが「私たち」の建築だと思うので、ずっと再生産していくのです。  このプロジェクトの計画地である新潟の高田には、雁木という、鳥が群れ飛ぶ姿に似たアーケード空間があります。普通、アーケードは公共空間ですが、土地の所有者が自分の土地をセットバックしてつくっていました。豪雪地の生活の知恵です。そういう考え方は、私の家だけれども地域の考え方に寄り添う「私たち」のデザインだなと思うのです。「リジェネラティブ(環境再生)」は、脱炭素社会の実現に向けて現状維持を意味する「サステナビリティ(持続可能性)」の先にある循環経済・環境再生を志向する考え方として使われ始めています。気候変動リスクが高まり、生物多様性への取組みが市場で重要性を増すなか、時代はサステナビリティという均衡思考を超えてネットゼロカーボンを目指す転換期を迎えました。活発な経済活動とドラスティックな環境負荷の低減を、私たちはどのように整合し、推進するべきでしょうか。 リジェネラティブを実践する建築家、小堀哲夫さんをゲストにお迎えし、討論しました。The term “regenerative” is increasingly heard in the con-text of a circular economy and restoration of environ-ments—going beyond “sustainability” while achieving a decarbonized society, which implies maintaining the status quo. As the risks associated with climate change increase and biodiversity initiatives gain importance in the marketplace, we have reached a turning point; the time has come to move beyond the sustainability con-cept as we aim for net-zero carbon emissions. How do we reconcile our efforts to promote economic growth with the need to reduce our environmental impact? We invited architect Tetsuo Kobori, who practices regenerative architecture, to share his thoughts on this topic.シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」(中島さち子氏プロデュース)■e expo’s signature pavilion, “Playground of Life: Jelly■sh Pavilion” (produced by Sachiko Nakajima)

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