様々な境界を越える公共空間のデザイン
熊本市 花畑広場&四日市市 “ニワミチよっかいち”中央通り再編基本計画

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2020年に国土交通省からこれからの道路のあり方を示す道路ビジョン「2040年道路の景色が変わる」が公開され、「ウォーカブルなまちづくり」が推進されるなかで、公共空間の再編プロジェクトが全国で進んでいます。今回は、地方都市の再生をテーマにした、熊本の「花畑広場(くまもと街なか広場/辛島公園/花畑公園)」と、四日市の中央通り再編基本計画「ニワミチよっかいち」をご紹介。中心市街地に大きなインパクトを与える、2つのプロジェクトから見えてきた“境界を越えるデザイン”とは?

敷地面積1.5ha、熊本城と庭つづきの「まちの大広間」

2021年11月に竣工した「花畑広場」は、熊本の中心市街地から熊本城へと続くエリアに位置する「くまもと街なか広場」「辛島公園」「花畑公園」という3つの敷地を含めた総称。敷地面積1.5haにも及ぶ公共デザインを実践した大規模なプロジェクトで、日建設計は「花畑広場」に加え、隣接する複合施設「サクラマチクマモト」の計画・設計を行っています。

コンセプトは「熊本城と庭つづき『まちの大広間』」。計画にあたっては、旧バスターミナル前面の約230mの道路を廃道し完全歩行者空間化、各敷地をつなぎ、まちの新しいランドマークとなることを目指しています。

全体計画図
©日建設計

都市計画と建築、土木が一体となった開発で、これほど大規模なプロジェクトは国内でも珍しく、それぞれの所有や管理、法的区分も異なるため、官民による連携はもちろんのこと、各設計者同士が丁寧にコミュニケーションを取って進めていく必要がありました。

たとえば、隣接する複合施設「サクラマチクマモト」前面のファサードや舗装、植栽の樹種選定に至るまで、建築設計者と協議を行ってデザインの統一を図っており、一見すると、どこからが民間でどこからが公共か、その境目がわからないほど。また、舗装や植栽のほか照明や色彩計画など、さまざまな境界を越えたデザインが実現したのです。

©日建設計

城下町そして復興、時間を受け止めるデザイン

そもそも熊本は、熊本城を中心とした歴史的なコンテクストが色濃く残る街。これまでの歴史を踏まえて、都市に新しい価値をつくるために意識したのは「時間を受け止めるデザイン」でした。

かつて参勤交代の街道としても使われていた道路は、城下町の特徴である広小路のイメージを継承し、日本の伝統的な尺貫法により、15間(約27m)の正方形を単位とした「広間」というモジュールに分割。このデザインは、現在進んでいる周辺の開発事業にも踏襲される、官民共通の意匠にもなっています。

また、2016年には熊本地震が発生し、同プロジェクトには復興のシンボルという位置づけも加わりました。そこで、震災によって破損した熊本城天守閣の瓦を広間の舗装材として再利用するなど、まちの記憶を継承するため、さまざまな素材の活用も行っています。
  • ©日建設計

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さらに、グリーンインフラの手法を使って広場で雨水を貯留し、災害時に活用できるシステムを構築しながら、防災拠点として周辺施設と連動したエリア防災の取り組みも。また、各敷地を一元的に管理・運営することで効率化を図りつつイベントを同時開催するなど、賑わいの相乗効果を生み出すための仕組みづくりについても工夫されています。

熊本城や周辺環境をふまえてエリアごとに異なる空間の性格をつくり、それぞれの居場所に合わせたファニチャーや設備を配置するなど、市民やまちづくりプレイヤーのニーズを反映してプロジェクトを進めていったのも大きな特徴で、こうしたデザインプロセスもあわせて評価され、2023年 土木学会デザイン賞 最優秀賞を受賞しました。

©日建設計

日本最大級の公共空間再編プロジェクト

「ニワミチよっかいち」は、三重県四日市にある近鉄四日市駅とJR四日市駅をつなぐ中央通り、全長約1.6km、幅員70mの広大な空間と、周辺に位置する市民公園、鵜の森公園、諏訪公園の3つの公園を含むエリアを対象とする、日本最大級の公共空間再編プロジェクト。2024年現在、近鉄四日市駅の西側については一部竣工し、それ以外のエリアについても順次整備が進んでいます。

基本計画のコンセプトにもなっている“ニワミチ”とは、自然との関わりの中で質の高い空間を実現する「グリーンインフラ」となる“ニワ”に、活動や滞留の場としての機能も取り入れた「ウォーカブル」な“ミチ”をかけ合わせたもの。

「ニワミチよっかいち」中央通り再編基本計画のコンセプト
©日建設計

車道については、現在の交通量に合わせて車線数を絞って南側に集約し、北側に生まれた歩行者空間を広場や公園のような魅力的な空間として整備するのが大きな方針。また全線にわたって自転車道の整備も行い、将来的には次世代モビリティの通行も想定しています。

近鉄四日市駅とJR四日市駅という2つの核をつくって、その間をつなぐ都市軸をつくり変えること。回遊性を高め、近鉄四日市駅周辺の賑わいを、沿道だけでなく街全体に波及させることを目指しています。

中央通りの整備方針
©日建設計

アーバンデザインの王道に、オール日建で取り組む

道路空間の再編というと、同じような道路断面が直線的に続いていくのが一般的。しかし、「ニワミチよっかいち」では、多彩な植栽や滞留・利活用の場が立ち現れたり、曲線的なランドスケープを取り入れたり。シーンが連続的に変化していく空間を意識して、道路を公園的につくることに挑戦しています。

さらに、近鉄四日市駅東側にまちの顔となる円形デッキを設けたほか、都市の骨格をつくる車道や歩道の照明、ベンチやサインなどのストリートファニチャーのデザインが、すべて“四日市オリジナル”なのも特徴のひとつ。整備完了が最終地点ではなく、道路空間全体のデザインコントロールや整備後の利活用を目指した戦略の策定などにも取り組んでいます。

©日建設計

  • ©日建設計

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建築の世界を知る人であれば、公園と道路を同じ舗装材で揃えるだけでも、さまざまな調整が必要であるとわかるはず。同プロジェクトでは、中心市街地としての一体感の演出を実現すべく、中央通りだけでなく3つの公園や駅前広場などを含めた全体の空間を同一のチームでつくりあげていくことで、管理区分にとらわれない“境界を越境した”トータルデザインに取り組んでいます。

日建設計が手がけたのは、道路・公園・デッキといった多岐にわたる施設のデザイン検討、計画・設計はもちろん、住民ワークショップなどの合意形成支援や社会実験、スマートシティ実装化事業の支援といった幅広い分野。また、関わるフェーズについても、計画・設計段階から施工段階の意図伝達業務まで、発注者である四日市市と共に一貫して同プロジェクトを推進してきました。「ニワミチよっかいち」は、まさにオール日建で取り組んだ、アーバンデザインの王道の実践といえるでしょう。
  • ©日建設計

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時代を「半歩」先取りする公共デザインを目指して

今回取り上げた「花畑広場」にしても「ニワミチよっかいち」にしても、抱えている課題は個別のもので、解決するためには当然、それぞれのまちに合わせたアプローチが必要になります。あるときは歴史的なコンテクスト、あるときは環境やスマートシティが、その答えになるのかもしれません。

ただひとつ共通しているのは、「市民のための空間をつくる」ということ。さまざまな課題を解きほぐして、みんなが同じ方向を向いて幸せになれる方法を探していくことが、私たちのミッションだと考えています。

市民の資産となる公共空間には、時代の一歩先を行くようなアバンギャルドなデザインのニーズは高くありません。それでも、出来上がったものがなるべく長く使われるために、デザインの射程はなるべく長くとりたいと考えています。今の時代に足が半歩かかりつつも未来が見え隠れする、といったような「時代を「半歩」先取りするまちのあり方」を目指していく。そのために、建築・土木・ランドスケープといった分野に縛られずに、提案を行っていきます。そして、関係者と合意したプランの実現が最も重要だと考えています。プランの実現のために、クライアントや関係者と共に、これからも真摯にプロジェクトに向かい合っていきます。

  • 八木 弘毅

    八木 弘毅

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    公共空間デザイン部
    部長

    京都大学大学院工学研究科修了。専門は公共空間デザイン、土木計画、土木意匠設計。人間の体験に根差したデザインを志向し、分野に捉われないプロジェクト実現をめざす。主なプロジェクトに、姫路市「駅前広場および大手前通り」、大阪市「御堂筋空間再編」、熊本市「桜町・花畑地区オープンスペース」、四日市市「近鉄四日市駅前広場および中央通り」等。著書に『市民がかかわるパブリックスペースのデザイン』(共著、小林正美編著、2015、エクスナレッジ)、『まちを再生する公共デザイン』(共著、学芸出版社、2019)等。京都大学工学部・工学研究科/神戸大学建築学科/大阪市立大学都市学科 非常勤講師。

  • 大川 雄三

    大川 雄三

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    公共空間デザイン部
    アソシエイト

    京都大学大学院工学研究科社会基盤工学修了、在学中にスイスの建築設計事務所において意匠設計に携わり、2015年に(株)日建設計シビルに入社。公共空間の計画・設計を担当。分野を横断しながら、現在と少し先の未来を見据えたチャレンジングな取り組みに日々邁進している。主なプロジェクトに、姫路市「大手前通り」、熊本市「桜町・花畑地区オープンスペース 」、大阪市「東横堀川外護岸等の公園」等。著書に「千葉工業大学 創造工学演習1 設計演習テキスト」(共著、2017)。 京都大学非常勤講師(2021-)。

  • 吉澤 広大

    吉澤 広大

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    公共空間デザイン部

    早稲田大学大学院創造理工学研究科修了、1年間の休学を得て、University of Brighton MSc Town Planning(英)を修了。2018年に(株)日建設計シビルに入社し、豊田市白浜公園改修詳細設計、豊田市中央公園整備基本設計、世田谷馬事公苑界わいサイン整備詳細設計等、河川、公園、道路、駅前広場等の公共空間の計画・設計を担当。日建設計に入社後、2020年に公共空間デザイングループへ所属。四日市市中央通り再編の一連のプロジェクトに複数年に渡って関与し、計画、設計・デザイン、現場管理までの一貫した業務に従事。公平性、維持管理、行政の意思決定、市民の声など、公共空間で直面するの多様な論理に真摯に向き合い、人々の心を少しでも豊かにできる空間づくりを目指し、日々精進している。

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