新型コロナウイルスにより
もたらされる新しい社会に向けて
~日本的思想「自然との共生」を
 デザインに生かす~

日建設計代表取締役社長 亀井忠夫
(役職は公開時のものです)

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 コロナ禍の社会を維持するため、世界中の医療従事者の方々が懸命に闘ってこられました。次は、私たち都市・建築の設計に携わる者が、今回の経験をふまえ、より安全で持続可能な都市環境を提案していくことが使命であると考えます。行動制限下に考えたことをお話します。

日建設計 代表取締役社長 亀井忠夫
(役職は公開時のものです)

 日本には、古来より自然と対峙するのではなく共生してきた歴史と伝統があり、生活や文化、そして建築や都市にもその考え方が息づいています。今回の新型コロナウイルスも自然の一部と捉え、”Withの精神”をもって共生していく道筋を探究していくことが第一歩ではないでしょうか。 

高密度の集中からバランスした分散へ

 都市機能を高密度に集約することは効率的で、様々な交流によるイノベーションの源泉となると考えられています。しかし、過度の集中はウイルス等により人とモノの移動が制限された時、事業継続の支障となることがあると知りました。これからはリモート環境をきちんと整備したうえで、業務・居住・商業ゾーンなどを適度な密度で分散させるなどの整備が必要でしょう。平常時は就業や生活する場所の選択肢が増え、災害時は最低限の機能確保につながります。都心と郊外との間の中間拠点の役割も見直され、発達した鉄道ネットワークも多様なモビリティサービスとともに活用されると考えます。
 しかし、変化はそれだけではありません。これからは、空間だけでなく、仮想現実や時間の概念も取り入れた、まったく新しい都市や建築、そして場づくりが求められる社会が訪れるでしょう。その時に向けて、今私たちは、チャレンジを始めています。

フレキシビリティのある建築空間への対応

 建物や部屋はそれぞれの「用途」に応じて法律で基準や規制が定められていますが、今回のウイルス問題では、病院における一般病床を感染症対応用に転用し、ホテルや住宅を軽症者の待機室に使っています。在宅勤務のリモートワークでは多くの住宅がオフィスとなりました。こうした経験から、これからの空間づくりは、過剰投資にならず、遵法性にも留意しながら平常時と災害時の柔軟な使い分けに備えていくことが社会の強靭さにもつながるのではないかと考えます。また、それは、使う人に合わせ、襖の開閉一つで部屋の大きさを変えたり、日常的に茶の間を寝室やダイニングなど複数用途にも対応してきた、日本の簡素でフレキシビリティの高い住文化を連想させます。 

呼吸する建築と都市 ~closeからopenへ

 日本建築には縁側などの半屋外空間があり、庇や建具によって日射などを制御しつつ、窓を開け放てば心地よい風が通ります。町家の光庭も狭いながらも自然との接点となる空間です。ウイルスの感染症対策では換気の実施が重点項目のひとつに指摘されていますが、こうした日本建築の考え方が、今ある建築や都市に、新たな形で応用されれば、感染症対策だけではなく、省エネルギーにも役立ちます。 

複合災害を想定したBCPとレジリエンス

 強靭な都市を創るという意味で、忘れてはならないのが災害対応です。日本はこれまで様々な自然災害を経験してきました。地震、台風、集中豪雨による河川の氾濫、停電などがパンデミックと同時に発生した時の対応として、平常時よりシミュレーションに基づく防災計画・都市づくりを進めていくことの重要性を実感しています。


   私たちの志を表現した「EXPERIENCE, INTEGRATED」には、人々の想いに応え、社会環境デザインの先端を拓いていく決意が込められています。これから私たちは、新コロナウイルスをきっかけに変化する新しい社会へのビジョンを発信していく予定です。皆様とともに、次なる社会を築いていくためのアクションへとつなげていけたらと考えております。(2020年5月28日)



※「Beyond Covid-19 社会・都市・建築」は連載です。今後は、建築家、プランナー、エンジニア、コンサルタント等が各専門の立場でビジョンを定期的に発信していきます。

  • 亀井 忠夫

    亀井 忠夫

    取締役 会長

    1981年、ペンシルバニア大学・早稲田大学修士課程修了後、日建設計に入社。建築家として、JTビル、クイーンズスクエア横浜、さいたまスーパーアリーナ、虎ノ門琴平タワー、衆議院・参議院議員会館、東京駅八重洲口開発グランルーフ、東京スカイツリー、YKK80ビルなどの設計を担当。一級建築士、日本建築学会会員。

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