アーバン・コアでつなぐ、「人の動き」と「街の多様性」【後編】

Scroll Down

現在、大規模な再開発が進行している渋谷の街。2018年には「渋谷ストリーム(以下、「ストリーム」と記載)」が開業、デザイン・アーキテクトを務めたシーラカンスアンドアソシエイツトウキョウの赤松佳珠子さん(右)と、2012年に竣工し再開発の嚆矢となった「渋谷ヒカリエ(以下、「ヒカリエ」と記載)」の設計者・吉野繁(左)が再開発プロジェクトについて語り合った。キーワードは各街区に設置される、地下と地上をひとつの動線で結ぶ上下移動の拠点「アーバン・コア」。2つの施設と2つのアーバン・コアから見えてくる、未来の渋谷の姿とは? ファシリテーターは国内外の都市開発プロジェクトを多数経験し、「渋谷駅中心地区まちづくりガイドライン」策定時から渋谷の再開発にも携わっている、都市開発グループ代表の奥森清喜。

TAG

渋谷の街のキャラクターを、新たな建物のデザインに

奥森:今年1月には渋谷スクランブルスクエア東棟のアーバン・コアが暫定オープンし、使われはじめています。また渋谷駅桜丘口地区(以下、「桜丘口地区」と記載)も今まさに着工していて、秋には西口の東急プラザ渋谷跡周辺に「渋谷フクラス」が竣工と、アーバン・コアがさらに広がっていきます。今後の再開発について期待することはありますか?

赤松:以前、大学院で渋谷を題材にした課題を出したとき、学生たちはまずセンター街方面をリサーチしていて、ストリームのある渋谷駅の南側エリアはあまり渋谷としては認識されていないんだなと感じました。国道246号や首都高速道路で分断されているからこそエリアごとに独自の特徴が出ているのもたしかですが、とはいえ都市のダイナミックな流動性は必要でしょう。都市全体が均質化しない再開発のあり方が重要で、今まさにそれが渋谷で行われているのだと思います。

吉野:アーバン・コアに街区を象徴する個性を持たせることも、そのひとつの手段ですよね。

赤松:はい。次はそれらを、どうつないでいくのかというフェーズに入ってきているのかなと。それぞれの街区の個性を確立しながら、アーバン・コアを介して各エリアがつながるとすごく面白いですよね。

吉野:ストリームは今後、桜丘口地区ともつながっていくんですよね?

赤松:桜丘口地区のデザイン・アーキテクトを務めている古谷誠章さんとも、デザイン会議を通して細かく調整しています。たとえばよく、電車を乗り換えるときにちょっとだけ屋根がないところがあるじゃないですか。「なんでこの一瞬だけ傘を差さなきゃいけないのかしら」って思うんです(笑)。渋谷の場合はデザイン会議があることで、そういう部分をエリア同士の調整で解決できるようになるはずです。各エリアが個性を持ちつつつながっていくような再開発はあまり例がないと思うので、うまくいってほしいですね。

渋谷ヒカリエ ©Shibuya Hikarie

吉野:ヒカリエは本当に最初の再開発で、当時はデザイン会議もありませんでしたから、まずアーバン・コア自体をどうするかという議論ばかりしていました。そもそも渋谷って、誰かが全体をデザインしたわけではなく、自然発生的に出来上がってきたからこその面白さもあるんですよね。そんな街を計画的に再開発するとなると、どんな方法があるのだろうか、と。やがて個々のエリアにバックグラウンドがあるのが渋谷だという意見が出てきて、その重要な要素としてアーバン・コアという考え方にたどりつきました。

赤松:ヒカリエにもその考え方は反映されているんですか?

吉野:はい、街の要素を積み木のように縦に重ねてつないだのがヒカリエなんです。オフィスもあって、劇場もあって、イベントホールもショップもあるから、ひとつにまとめたデザインにすることもできるけれど、いっそ用途ごとに分けたほうが無理は生じないと考えて。そうやって分節化していった間に混ざり合う部分をつくり、エレベーターで結ぶというのが大きな考え方ですね。ストリームも特徴的な外観ですが、どういったコンセプトがあるんですか?

赤松:超高層ビルだと、事業性の観点もあって、上部の形状はある程度決まってきますよね。だから、まずは足元の部分を考えていきました。東横線の線路だったという記憶をどう残していくかとか、渋谷の街の雑居ビルや路地が細かく集まっているスケール感にいかに合わせていくかとか。「はい、ここがビルの入口です!」という感じにならないように、低層部には外部と内部をつなぐポーラス(孔)を設けて、道がそのまま敷地に抜けていくようなイメージにしています。

渋谷ストリーム(左:渋谷ヒカリエ前から望む 右上:稲荷橋広場 右下:2階ストリーム・ライン)©CAt

吉野:なるほど。上層部のホワイトパネルと窓をランダムに組み合わせたファサードも、今までにない形ですよね。

赤松:ただのラッピングではなく、いろいろな機能を含めたファサードにしていこうと考えてスタディを行いました。すべてが完全に実現できているわけではないのですが、自然の風を取り込んだり日射を遮蔽したり、環境や構造にも生かせるよう繰り返し検討して。あとは今後、再開発が進む中でできてくるほかのビルともなじむようにと考えました。よく議論していたのは、人間のスケールに合わせた足元と都市のスケールの上層部をいかにつなげるのかということですね。

奥森:日建設計でもマスタープランの段階で渋谷川をどうするかという議論をしていて、日建設計のチームが渋谷川沿いの空間デザインのお手伝いさせていただいています。川をかなり立体的にとらえて、側溝をベンチやテーブルに使うなどインダストリアル的なデザインに仕上げていますね。

赤松:このプロジェクトのお話をいただいた最初から、渋谷川の存在はすごく意識していたんですよ。実は私たちの事務所は昔、渋谷川沿いにあったんです。明治通りと渋谷川の間の、薄皮のような敷地にある小さいビルに入居していて。まだ新人の頃、雑誌の撮影で渋谷川の護岸に投光機を持ち込んで、ゲリラ的に写真を撮ったことを覚えています(笑)。それ以来、渋谷は華やかな街だけれど、渋谷川のような都市のヴォイド的な部分が本当の姿じゃないかとずっと思っていました。

大規模な再開発に、
小さなプロジェクトを織り交ぜていく

奥森:ヒカリエは駅と駅を、そして谷の下と上の青山方面をつないでいます。人の流れそのものが立体的に重なっているところが最大の特徴だと思いますが、そのあたりはどうでしょう?

吉野:私が学生の頃の渋谷は、道玄坂から駅のところまで下りてくるとなんだか汚いし(笑)、また階段を上がって電車に乗るのも面倒くさかったので、結局30代後半くらいからあまり行かなくなってしまったんですよ。だけど渋谷マークシティが完成して、道玄坂上につながる金属パネルのかっこいいゲートができたことで東急本店のほうにも出やすくなって、また渋谷に来るようになったんです。ヒカリエもアーバン・コアを伝っていくと表参道方面に散歩気分で行くことができます。巨大な架構がなくても、ある意味獣道のようなものでも、つながれば人の流れができるんだと思いました。

赤松:ヒカリエは青山につながっているし、ストリームは恵比寿・代官山につながっていて。それぞれ色濃いバックグラウンドと個性が生かせれば、渋谷全体がつながることで街としての面白さと便利さが両立できるのでしょうね。

吉野:こんなに変化していった都市って、渋谷以外にあまりないんじゃないですか? 20代、30代、40代と年齢を重ねる中でどんどん変わっていって、面白い街だなとつくづく思います。

奥森:おふたりがこれからの渋谷に期待すること、あるいはやってみたいプロジェクトは?

吉野:渋谷が変化していく中で、まだ変わっていないと感じるのがJRの駅。駅を含む渋谷スクランブルスクエアには、デザイン・アーキテクトとして日建設計、隈研吾さん、妹島和世さんが関わっていますが、Ⅱ期となる駅のしつらえなどは、おそらくこれからデザイン会議で議論していくところだと思います。たとえば、建築デザインというよりも、もう少しヒューマンタッチな、ホームや改札など設えそのもののデザインもやってみたいですね。

赤松:デザイン会議のように継続的に議論をする場があって、内藤さんや岸井さんのように最初から見ている方もいるというのは大きいですよね。大きな開発をするとグーグル合同会社などの大企業が入ってきて街が活性化するというのはもちろんあるでしょう。でも一方で、私はスタートアップの人たちがたくさんいるのも魅力だと感じていて、小さいスケールのものも残していきたい。そういう意味でも、クリエイティブなこととつながりながら、この街で暮らせるようになったらいいなと思っています。

吉野:いわゆる住宅というよりは、一時滞在できる宿泊施設のようなものですか?

赤松:お店の上にちょっと住める場所があったり、若い人たちがアトリエを構えながら活動できたり、そういう小規模のものですね。一等地だから賃料が高くなってしまうのを、うまく循環させられる仕組みがあれば……。古い小さなビルをうまく改修しながら、大規模開発の隙間に入っていくような。

吉野:渋谷川沿いに建つペンシルビルを再生していこう、コンバージョンしていこうという動きはあるみたいですよ。僕もぜひやりたいですね。渋谷川のあたりって、変わったお店がたくさんあるんですよ。ラーメン屋なのに裏口を上がるとバーになっているとか、映画の撮影で使われたビルもあるし、アニメーターが集うオフィスもあるし……。

赤松:明治通りと渋谷川の間の、あの薄皮一枚が実は大事なのかもしれませんよね。今後、超高層ビルに関わる機会はそうそうないだろうなと思っているので、渋谷エリアの小規模で面白い仕事があったら、ぜひ声をかけてください(笑)。

奥森:単純な資本の論理だけでは動かせないものを、いかに取り入れられるかという議論や仕組みも非常に重要ですね。完成した2つのアーバン・コアはもちろん、大小さまざまなプロジェクトの連携が渋谷の活性化につながりますから。今後もこういう議論を続けていきたいと思います。今日はありがとうございました。

赤松佳珠子
CAtパートナー
法政大学教授/神戸芸術工科大学非常勤講師

1990年、日本女子大学家政学部住居学科卒業後、シーラカンス(のちのC+A、CAt)に加わる。2002年よりパートナー。主な作品に「流山市立おおたかの森小中学校・おおたかの森センター・こども図書館」「南方熊楠記念館新館」「京都外国語大学新4号館」など。主な受賞に、日本建築学会賞(作品)、村野藤吾賞、JIA賞、BCS賞、グッドデザイン賞など。

吉野繁
日建設計 フェロー役員
デザインフェロー

1986年、早稲田大学修士課程を経て日建設計に入社。専門は建築意匠設計。主な作品に「日本科学未来館」「ホーチミン会議場展示場」「東京スカイツリー」「ホテルオリオンモトブリゾート&スパ」「新源国際/石家庄プロジェクト」など。主な受賞に、グットデザイン賞、Design For Asia Award (DFAA)2013(香港)Grand Award(大賞)、日本産業技術大賞内閣総理大臣賞など。

プロフィール

奥森清喜
日建設計 執行役員
都市部門 都市開発グループ代表

1992年、東京工業大学大学院総合理工学研究科を修了後、日建設計に入社。専門は都市プランナー。東京駅、渋谷駅に代表される駅まち一体型開発(Transit Oriented Development : TOD)に携わり、中国、ロシアなど多くの海外TODプロジェクトにも参画。主な受賞に、土木学会デザイン賞、鉄道建築協会賞、日本不動産学会著作賞 など。

プロフィール

当サイトでは、クッキー(Cookie)を使用しています。このウェブサイトを引き続き使用することにより、お客様はクッキーの使用に同意するものとします。Our policy.