熊本地震で観測された「長周期パルス」とは
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2017年9月に、NHKスペシャル「MEGA CRISIS」が放送されました。この番組では、2016年4月16日に発生した熊本地震の際に西原村で観測された「長周期パルス」と呼ばれる地震動記録、および長周期パルスを用いた高層ビルの揺れのシミュレーション結果が取り上げられていました。ご存知のように、日本は地震災害が多い国です。そのため日本の地震の研究は世界的にも、他国より進んでいます。そんな日本でも、フリングステップによる「長周期パルス」は、国内観測史上初となる特殊な揺れでした。
ここでは「長周期パルス」について解説していきます。長周期パルスの定義やその発生条件、建物にどのような影響を与えるのか、日建設計では長周期パルスに備えてどのような対策をしているのかを紹介していきます。
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長周期パルスを理解するために
長周期パルスとは、大地震時に振動周期が長周期の揺れが、大きな変位で一度に生じる地震動を表します。普段聞きなれないパルスという言葉は、短時間で急激な変化を生じる信号や応答を意味します。
長周期パルスを詳しく説明する前に、地震動について説明します。地震動とは、地面における揺れ動きのことで、各地震動がそれぞれの周期を持ちます。周期が約0.5~1.0秒のものが短周期地震動、1.0~2.0秒のものがやや短周期地震動、2.0~5.0秒のものがやや長周期地震動、5.0秒以上のものが長周期地震動に分類されます。周期によって、地震動の特性が異なります。
また建物にはそれぞれ、揺れやすい周期(固有周期)があります。この建物の固有周期が地震動の周期と一致すると、大きな揺れが生じるのです。これは共振と言って自然界で起こるあらゆる振動に共通した現象です。例えば、一本の棒に長さが違う3つの振り子をぶら下げ、手で揺らすとその中の一つだけを動かすことができますが、これは手の動きによる揺れと同じ固有周期を持つ振り子が共振することによって生じます。地震動の大きさが小さくても、建物と地震動の周期が一致して共振すると被害は大きくなってしまいます。
住宅などの小規模建築から中規模建築は、建物の周期がやや短周期地震動の持つ1.0〜2.0秒の周期と一致し、大きなダメージを受けます。木造家屋が多く倒壊した阪神・淡路大震災では、このような周期の地震動が観測されました。
一方、周期が2.0秒以上のやや長周期地震動や長周期地震動は高層建築物に影響を与えやすく、長距離、長時間振動が伝わるのが特徴です。2011年の東日本大震災で震源地からほど遠い東京の高層建築物がゆらゆらと揺れた原因は、長周期地震動によるものです。
長周期パルスの2つの揺れ方の特徴とは
長周期パルスには2つのそれぞれ別の揺れ方が含まれています。2つの揺れ方であるフリングステップと指向性パルス、それらの特徴を解説します。
フリングステップは、通常の地震のように小刻みで繰り返しではなく、大きく一方向だけに揺れるのが特徴です。断層すべりに起因して、地面に永久変位が生じます。ずれの量の時間に対する推移を見たときに階段のステップのような形状をした大振幅が現れるため、フリングステップと呼ばれます。断層すべりは数m以上になることもあり、断層直近の建物は傾斜したり、地表面断層の直上に建物があった場合はちぎられるような甚大な被害が発生したりします。
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フリングステップのイメージ
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フリングステップの速度と変位
指向性パルスとは、フリングステップと直交方向に生じる揺れで、一方向でなく、一回大きく往復して揺れることが特徴です。指向性とは、方向によりエネルギーの強さが異なることを表します。地震の際には断層破壊に伴って断層の各点から波が発生しますが、指向性パルスでは特定の方向で、それらの波の最大となるタイミングが一致してしまい、結果として非常に大きな波形が合成され、大きな揺れとなります。
上記の2つの揺れにおいて、その大小関係は一概には言えません。また、長周期パルスの2つの揺れは、長周期地震動のように震源から遠いところで発生するものではありません。そのため突然大きな揺れが発生した場合、建築が瞬時にダメージを受け、避難が困難になる危険があります。
熊本地震本震の際の西原村の揺れ
長周期パルスが建物に与える影響とは
熊本地震における西原村で観測されたフリングステップの周期は、3秒ととても長いものでした。徐々に長く増幅する長周期地震動と異なり、突然大きな長周期の衝撃が生じます。そのため免震装置では、揺れを抑制しきれず建物が免震装置の擁壁に衝突する危険性があります。
指向性パルスは1995年兵庫県南部地震で確認されている揺れで、その際には周期が1.0~2.0秒であるやや短周期において大きく卓越し、耐震性に劣る木造家屋の多くに被害が及びました。
熊本地震における西原村の長周期パルスの揺れを用いたモデル建物(鉄骨造30階建て、高さ120m)のシミュレーション結果から、2つの揺れが建物に与える影響が伺えます。モデル建物最上部の変位はフリングステップの場合2.2mと建物の高さの1/55、指向性パルスの場合1.4mと建物の高さの1/86となります。大地震が生じた際であっても変位が1/100を超えないよう設計されているなかで、両方の揺れで1/100を超えた結果となり、フリングステップに至っては約2倍となっています。
時間の経過に伴う地面とモデル建物の動き
モデル建物の変形(変形は25倍に強調)
長周期パルスの発生しやすさは、断層との位置関係で変わる
フリングステップでは、
1)断層が直下にある、あるいは断層が近い
2)断層の動きの大きな領域が地表から浅い位置にある
3)地表に断層の動きが現れる
の条件が重なったときに発生しやすい、と考えられています。熊本地震における西原村でも地表から約0.6kmの地点と、地表から近い位置に断層がありました。そのため地表に断層の動きがそのまま現れるような地割れが生じ、フリングステップが発生しました。
西原村直下の断層位置とその断層内で地盤が動いた量
出典:国土地理院時報 2016 No. 128 図-7(b)に青字・青線で加筆
http://www.gsi.go.jp/common/000150946.pdf
熊本地震本震の断層モデル
出典: 国土地理院時報 2016 No. 128 図-6「本震の矩形断層モデル/(c)矩形断層モデルの概念図)に青字・青線で加筆
http://www.gsi.go.jp/common/000150946.pdf
大切なのは建築地の状況を把握して対策すること
長周期パルスはいくつかの条件が揃うことで発生するため、すべての場所や建築に甚大な被害をもたらすわけではありません。また近年では、活断層の直上では建築を控える条例などもあります。重要なのは、建築地の地下の状況を把握し、対策することです。
日建設計ではそれぞれのプロジェクトごとに、地震動の発生条件を確認します。そして必要に応じてシミュレーションを行い、対策を立てています。建物に大きな地震動が生じても被害が最小限に収まるように、またその際の機能も含めて設計に反映させるように、プロジェクト1件1件に対して真摯に、地震に対する対策に取り組んでいます。