安心して暮らせる「大きな家」そして地域に開く学校「馬蹄寨(マーティジャイ)希望小学」
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日建設計[上海]の有志が上海の設計事務所2社とチームを結成し、プロフェッショナル・ボランティアとして設計を行った中国・雲南省の「馬蹄寨(マーティジャイ)希望小学」。希望小学とは、経済的な理由により就学のできない子どもへの支援や、貧困地域の小学校の新築改修を行う希望工程活動により建設された小学校のことを言います。
貧困地域は、厳しい気候や地形であることや、安定した産業がないなどの問題を抱えています。それに対してプロジェクトチームが行なった支援は、建築としてのハードの寄付だけでなく、自立した生活ができるようになるための取り組みでした。上海での日常の業務は、中国都市部の大型開発プロジェクトが大部分を占め、使い手の姿が見えるような仕事に触れることが少ない中で、使い手に思いを馳せ、優しさをもって設計するという大切な原点を共有できたプロジェクトでもあります。
単なる学校ではなく、たくさんの「行動」が生まれ、生活の中心となる場所になりますように。そのような豊かな未来への願いが込められた「馬蹄寨(マーティジャイ)希望小学」プロジェクトをご紹介します。
「馬蹄寨(マーティジャイ)希望小学」プロジェクトスタートの背景
現地視察に入る前に、1.対象地の基礎資料分析、2.日本・世界での学校建築の潮流、3.教育システムの変遷、4.実現可能な構造・環境技術、5.1カ年短期実行計画、6.約5カ年長期実行計画、といったチームに分かれ基礎的な研究をスタートしました。
現地調査からわかった地域の実態
しかも、地震が発生する可能性の高い地域にありながら大多数の学校が老朽化しており、現地政府は速やかに学校の建替えを行うことを迫られていました。そのため、十分な検討を重ねながらも、効率よく進めていくことが要求されました。
4人一組の授業風景
「子ども達が限られた資源と環境の中で、自分なりの知恵を活かして、頑張って勉強している姿に圧倒されました」。プロジェクトメンバーの劉氏の言葉の通り、子どもたちは物資が十分にない環境で生活のさまざまな工夫を自力で見出し、場所や物を自然に周りと共有する意識が見られたことは大きな発見でした。例えば、屋根の小屋組みを収納に変えたり、卓球台を食卓に変えたりするなど、空間の臨機応変な使い方に、子どもたちのすばらしい生活力と思いやりを感じることができました。
中庭の卓球台で昼食をとる子どもたち
安心して暮らせる「大きな家」、そして地域に開く学校へ
これらの提案の実現には、実際に子どもたちを守り育てる立場にある現地政府と教育局が、自分たちの村・子どもたち・自然の潜在力を主体的に再発見する努力が不可欠でした。それが現地と私たちが、共にプロジェクトを推進していくための共通理念となりました。
軽視されがちな情操教育を学校の中核に
今回の対象地域には独自の文化形成を遂げた複数の少数民族が暮らしており、民族独自の言葉や衣装、踊りといった芸術が現在も存在します。
少数民族の花族の衣装
村のシステムにのっとった長く根付く建物
「家であり村である学校」の設計を具現化するため、準備研究の成果から最低限の設計原則を定めました。ただの四角い箱ではなく、いくつかの小さい建物をブリッジでつなげたり、高さがバラバラの窓を設置したりするなど、子どもたちのイメージが広がるような工夫をしてきました。さらに設計だけでなく、子どもたちに掃除の仕方を教えるなど、一方的に与えるだけでなく自立して生活できる支援を行うことにより、持続的な施設の利用を促しました。