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建築が動き出した! -さいたまスーパーアリーナ-

 映画「スターウォーズ」の冒頭、ジョン・ウィリアムズ作曲のテーマ音楽をバックに、巨大な宇宙船が頭上を延々と通り過ぎてゆくシーンが出てきます。動きそうにないはずの巨大な構築物が動くことには、何かワクワクするような気分を感じるものです。
 さいたまスーパーアリーナ(設計:MAS2000設計室、代表:日建設計)では、総重量15,000tのムービングブロックと呼ばれる構築物が動いています。この15,000tという重量は、乗用車約15,000台分の重量に相当し、あるいは10階建て程度の平均的なオフィスビルの重さに相当します。

9-14 さいたまスーパーアリーナ 平成12年(2000)
   写真右下の緑地が、けやき広場。

3日間で10万5,000人が体感した、レディー・ガガのコンサート

 2012年5月、世界的歌手のレディー・ガガが来日し、さいたまスーパーアリーナで公演を行いました。その日本公演3日間の観客動員数の合計は、10万5,000人を記録したそうです。このように、イベントをリアルに体感したいという欲求はネット情報環境が拡大すればするほど大きなものになっているようです。そして、プロ・サッカーのエキシビションやアメリカンフットボールなどのスポーツイベント、シティマラソンのような参加型イベントも、ますます大規模なものになっています。さいたまスーパーアリーナでは、このような大規模イベントの時、最大37、000人を収容できる「スタジアムモード」と呼ばれる客席構成ができるように設計されました。

 ところが、このような大規模イベントは1年を通じて頻繁に行われるわけではありません。大半のイベントは、5,000人程度の収容人数のイベントホールで充分です。逆に大き過ぎるホールでは、臨場感のあるイベントとすることには無理があり、主催者側としても観客数に相応しい大きさのイベントホールを求めることとなります。

 さいたまスーパーアリーナでは、その要望に応えるため、ホールの大きさと客席数を変えることを、客席を支える大きな構造物を動かすことで実現しました。この小さくした収容人数5,000席の客席構成は「アリーナモード」と名付けられ、客席を支える大きな構造物は、「ムービングブロック」と名付けられています。コンサートに限らず、バスケットボールやアイススケートなどのイベントにも「アリーナモード」は適しています。
  • 9-15 アリーナモード(手前:コミュニティアリーナ)

  • 9-16 アリーナモード時の断面図
    配管離接合機構・ダクト離接合機構はアリーナ用に接続されている。

  • 9-17 スタジアムモード

  • 9-18 スタジアムモード時の断面図
    配管離接合機構・ダクト離接合機構はスタジアム用に接続されている。

動く15,000トン

 ムービングブロックは、客席・ロビーはもちろんのこと、店舗・便所・階段なども備えた、屋根付きの15,000tの動く建築ブロックです。ムービングブロックの屋根には空調用ダクトや消火用スプリンクラーなども設置されており、5階に及ぶロビーコンコースを持つ幅126m・奥行70m・高さ41.5mの半円形平面の大きなビルのような構造物は、ゆっくりとスタジアム全体中を歩くように動きます。

 このムービングブロックは、64台の台車によって支えられており、制御された20台のモーターで70mの距離を20分で移動できます。スプリンクラーや便所の配管そして空調ダクトは、伸び縮みするわけではなく、スタジアムモードの位置とアリーナモードのそれぞれの位置に、配管やダクトを接合できる仕組みを持っており、そこで離接合できるようになっています。

9-19 ムービングブロック駆動台車

 建物全体の中で、動くのはこれだけではありません。スポーツ競技に対応するため、スタジアムモードの時のフィールドには人工芝を全面に敷設できるようになっており、この人工芝を1本のロールに巻き取れる機構も備えています。当然ながら、コンサート等の演出効果を高めるため可動のバトンや照明器具など天井吊物機構も備えています。

9-20 ムービングブロック配管離接合部

動いた跡のスペースは使えるの?

  • 9-21 アリーナモード時2階平面図
    メインアリーナの右には、コミュニティアリーナが示されている。

  • 9-22 アリーナモード時に出現するコミュニティアリーナ
       中央の窓の外側には、けやき広場がつながっている。

 アリーナモードとして使われる時、ムービングブロックが動いて残された跡には大きなスペースが出来ますが、このスペースはスカイライトや開口部から自然光や風が取り込まれ、開放的なイベント空間となります。このスペースは、外部のけやき広場にもつながっており、「コミュニティアリーナ」と呼ばれ親しまれています。
 遮音・遮光している「スタジアムもしくはアリーナ」と、外部空間と一体となって都市的な広場をつくり出している「コミュニティアリーナ」は、対照的な2つのイベント空間となっています。

 さいたまスーパーアリーナは、日本でも有数の稼働率の高いホールとなっていますが、同時に「建築が動くこと」による新しい可能性も示しています。

9-23 夕刻のさいたまスーパーアリーナ

(参考文献)
さいたまスーパーアリーナ ホームページ
(2000) 『新建築 2000年7月号』新建築社
出典
9-14   撮影:三輪晃久写真研究所
9-19~20 撮影:エスエス東京
9-22~23 撮影:新建築社写真部

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