環境への思いを繋ぐゼロエネルギースクール
~環境建築と生徒のエコ活動によるZEB実現~

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地球温暖化や気候変動による自然災害の増加などの「環境問題」はいまや、全人類にとっての社会的課題です。日建設計は未来を担う子どもたちが、その課題に日々向き合い、自ら行動することで省エネルギーを実践する岐阜県の「瑞浪市立瑞浪北中学校」の設計を担当しました。文部科学省のスーパーエコスクール実証事業(*)として2019年に開校し、同年9月から2020年8月までの1年間の消費エネルギーが、実質上のZero Energy Building(ZEB)を達成しています。建築のかたちで自然エネルギーを最大限に活用すると同時に、空気や光の動きを生徒が日々意識して学校を使用していることが、ゼロエネルギー実現への鍵となりました。

*スーパーエコスクール実証事業:公立学校施設で、省エネ、創エネ、蓄エネ等の技術を用いて、年間のエネルギー消費を実質上ゼロとするゼロエネルギー化を推進するための実証事業。全国で7事例(新築2件、既存建築5件)のなかで、瑞浪北中学は初めてZEBを達成した。

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自然の力を活かすデザイン

「瑞浪市らしさ、地元の気候風土や文化を学び直すきっかけとなったプロジェクト」。そう語るのは、瑞浪市出身の設計担当の村井健治(設計部門アソシエイト)です。スーパーエコスクールとしてZEBを実現するため、自然の力を最大限に利用できる建築デザインを考えました。

まずひとつ目は、空気の温度や流れを建築で調節しています。冷暖房をなるべく使わなくても快適に過ごせるように、校舎配置を工夫しました。山が北側にあり、西から東に風が吹く地形をいかし、北棟、東棟、南棟と体育館からなる校舎の、南棟を斜めに配置すること、体育館の壁面を曲線にすることで、風が中庭に取り込まれます。配置パターンと風の流れをシミュレーションし、最適な形状を導くことができました。その風は、クールトレンチに入り、夏季には22~24℃まで冷えた温度の空気が、各教室まで循環する仕組みになっています。

風に開いた校舎

また、階段ホールを南北に長く連続させる断面形状として、最上部で排気する仕組みをつくることで、暖かい空気を上昇させる重力換気を行い、校舎内の自然換気を促しています。これは「焼物のまちである瑞浪市の登り窯の仕組みを参考にしたもの」(村井)。地域に根付いた先人の知恵を取り入れた建物の構成です。

南北に長く連続させた階段ホールは、瑞浪市の登り窯を参考に、1階で吸い込んだ空気を最上部で排気する自然喚起装置になっている。

ふたつ目は、できるだけ照明を使わずに自然採光で明るさを確保すること。普通教室を最も眺望の良い最上階とし、北から南に下がる木造の勾配屋根を架けています。南側には庇を出して直射光を抑え、北窓からの柔らかな天空光を取り入れています。この形状によって、自然光だけで、学校としての標準的な机上面照度の500lxを確保できています。

普通教室

さらに、教室の腰壁や体育館の屋根を鋼板製の「太陽集熱パネル」とし、冬季に太陽熱で空気をあたためて暖房に利用しています。

生徒の自発的な省エネルギー行動を促す

「生徒自身が環境を考えながら校舎を使うことを一番に考えた」と村井は言います。設備設計を担当した田中宏明(エンジニアリング部門 設備設計グループ シニアダイレクター)もまた、「実際にゼロエネルギーになることも重要だけれど、生徒がエコロジーや省エネを意識できることをいちばん大切にしました。そのために、機械をつかった自動空調ではなく、生徒自身が手動で操作する仕組みを考えました。」と口をそろえます。実は、この建物は、最初から、省エネ活動分も込みでゼロエネルギーを達成するという想定となっており、生徒の自発的な活動がとても重要なファクターとなっていました。

そのためのアイデアが、校舎の各場所にちりばめられています。各教室にある「エコモニター」は、学校全体のリアルタイムの環境条件、教室内の温湿度や二酸化炭素濃度などを見て、操作をすることができます。たとえば、教室とクールトレンチ内の温度を見比べて、教室内に空気を取り入れるかどうかを生徒が判断します。また、ほかの教室と比較した「省エネランキング」も表示されるので、生徒の省エネに対するモチベーション向上にもつながっていることでしょう。空気や光の環境状態を表示する技術は従来のものですが、生徒が理解しやすいように、どのような環境データをどのように表示するか、意匠・設備の設計者が一緒に考えました。タッチパネルのアイコンは、デジタル・ネイティブ世代が親しみやすいよう、「スマートフォンのアイコンや操作方法を参考にした」(村井)ものです。

エコモニター

学校ならではの画期的な換気アイテムが、普通教室にある「クールウォームロッカー」です。教室の後ろ側の壁がロッカーと自然換気、空調設備が一体化したユニットになっているのです。ロッカーの上部には、涼風温風吹き出しスリットがあり、その両脇に地下のクールトレンチからの空気を循環させるファンと、教室の壁で太陽集熱した温風を吹き出すファンがあります。高性能のエアコンもこの壁にビルトインされ、木質仕上げの教室に違和感なく溶け込んでいます。

クールウォームロッカー

その他にも、クールトレンチ内の空気の温度や流れが見えるガラス床、断熱材の効果を手で触れて実感できる壁、ライトシェルフからの自然光の反射で太陽高度が分かる定規のような理科室の天井サインなど、校舎全体が環境学習の教材になっています。設計段階から、先生と設計者が共に環境学習についてのワークショップを行い、開校後は意匠・設備の設計者が「学校の使い方」について出前授業を行いました。

生徒に対して行ったアンケート調査によると、8割以上が環境のことを意識するようになったと回答しています。家でも意識するようになったという生徒も多く、自分で考えながら環境条件を操作する経験は、地域や次世代の環境行動に影響を及ぼしていくに違いありません。

トレンチのぞき穴

断熱壁

自然光の反射で太陽高度を知るためのメモリのついた天井。

専門領域を融合して生まれるインテグレート・デザイン

瑞浪北中学を一年間実測した結果、一次エネルギー消費が基準モデルに比べ、約50%の省エネができていることが明らかになりました。それに加え、太陽光発電、風力発電、ペレットストーブによる創エネルギーで72%削減となり、余った電力などをオフサイトにエネルギー供給していることで、実質ゼロエネルギーとなっています。

瑞浪北中学の一次エネルギー削減率

「省エネというと、設備の専門家だけがやっているように思われがちですが、建築のかたちや素材などと一緒に考えていかないとゼロエネルギーは達成できません」と田中は言います。瑞浪北中では50%削減だった建築本体による省エネも、「もっとアイデアを出し、80%削減くらいをめざしていきたいと考えています」(田中)。

太陽光パネルの配置にも、屋根の面積や形状が大きく関わるため、創エネルギーにも建築のデザインが重要です。さらに、ZEBのエネルギー計算には入りませんが、建築のライフサイクルCO2には、建材の輸送なども大きく関わります。床材や壁材には、岐阜県産の杉や桧をふんだんに利用しました。また、焼き物のまちらしく、外壁には瑞浪市周辺の土を用いて、市内の工場で焼いたタイルを用いています。瑞浪北中学校では、エネルギーをゼロにするという目標とともに、将来を担う子供たちに環境についての意識を高めてもらうための環境教育の場をつくり、地域に根差した建築を意匠・設備の設計者がアイデアを出し合って実現することができました。そして、「省エネルギーのために我慢する」のではなく、「省エネルギーの仕組みがあるからこそ我慢せずに快適な環境を生徒自身でつくりだすことができ、加えて自然光に代表される自然の恵みの享受や教育などのさらなる価値を生みだすことができる」日建設計の目指す環境建築を体現している建物の一つとなっています。

田中 宏明
エンジニアリング部門 設備設計グループ
シニアダイレクター

1994年神戸大学大学院環境計画学専攻を経て、日建設計に入社。トヨタ自動車事務本館、静岡ガス本社ビル、六合エレメック本社ビル、浜松信用金庫駅南支店、国内初のZEBスクールとなる瑞浪市立北中学校の建築設備・環境デザインを担当。省エネ大賞、サステナブル建築賞、コージェネ大賞、空気調和・衛生工学会技術賞。名古屋大学、三重大学で非常勤講師の実績。博士(工学)、技術士(衛生工学)、設備設計一級建築士。

村井 健治
設計部門 アソシエイト

2008年、大阪大学大学院地球総合工学科建築工学コース修了後、日建設計入社。建築の意匠設計を専門とし、教育、庁舎、事務所など多岐にわたる分野において、地域性や周辺環境をふまえ、その場所で過ごす人々の環境を豊かな空間とするために、建築・環境・ランドスケープを一体として考えることを大切にしています。瑞浪北中学校(2018)、海南市庁舎(2017)、阪南大学50周年記念館(2014)、清風南海学園新校舎(2013)、阿波銀行福島支店(2015)、特別養護老人ホーム琴江荘(2015)などを担当。一級建築士、日本建築学会会員。

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