9つの事業者が組んだ”チーム渋谷”による工事調整と広報活動【前編】

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渋谷駅中心地区の再開発工事が本格的に動き出したのは、渋谷ヒカリエが開業した2012年のこと。その翌年、長期的な視野で工事・工程の調整を行う「渋谷駅中心地区工事・工程協議会(通称:CM会議)」がスタートした。集ったのは、まさに“チーム渋谷”といえる、鉄道各社や開発事業者など9つの事業者。今回は、そのメンバーである東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の有川貞久さん(現:新宿南エネルギーサービス株式会社)、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の白子慎介さん、東急株式会社(東急)の森正宏さん、また株式会社日建設計とともにCM会議の立ち上げと運営に携わったパシフィックコンサルタンツ株式会社の小脇立二さんを招いて、再開発工事のこれまでとこれから、そして“チーム渋谷”が果たした役割について語り合った。ファシリテーターは、同協議会の立ち上げ時からプロジェクトに関わる、日建設計都市部門TOD計画部アソシエイトの篠塚雄一郎。

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全体を見通すCM会議は、渋谷再開発の“推進力”

篠塚:「渋谷駅中心地区工事・工程協議会(CM会議)」が設立されたのは、2013年度末。そこから工事の工程を擦り合わせたり、あるいは工事内容の「見える化」といった広報活動について話し合ったりと、さまざまな動きがありました。まずはみなさんに、CM会議立ち上げ時の話からうかがいたいのですが。

有川:私は当時、JR東日本のターミナル計画部の課長でした。最初は、集まった9者で誘導サインや広報・PR用ポスターの表現を統一しようと、よく話していたことを覚えています。それまで経験のない取り組みでしたから、社内でも、何をしているのか頻繁に説明していましたね。

篠塚:2016年には、工事をPRするポスターを各社で揃えてつくりましたよね。同じフォーマットで、キャッチフレーズを3つに揃えて、各事業者で色を分けて。JR東日本さんのポスターは「並ぶぜ!! ホーム」というキャッチコピー。埼京線のホームが移設して、山手線のホームと隣接することを示すポスターで、その思い切りのよさにびっくりしました(笑)。

有川:自社の「行くぜ、東北。」キャンペーンのパロディで(笑)。

白子:私たち東京メトロは対照的に「伝統×先端の融合」という硬いコピーでしたから、あのコピーには驚かされました(笑)。私も有川さんと同じで、立ち上げ当初にサインの統一ルールについて議論をしたことが印象深いですね。とくに私たちとJR東日本さんは、自社のサインとの整合性を考えると、どこまで統一するかなかなか難しい面もあって、議論の入り口で時間がかかった記憶があります。

篠塚:結果的には、方面誘導サインのベースを渋谷駅街区の土地区画整理事業(駅街区区画整理)が元々つくっていたデザインに合わせることになりましたね。また、工事中には歩行者通路の切り替わりが発生しますが、工事主体が複雑に入り組んでいますから、歩行者動線の切り替えの事前、事後の案内なども統一フォーマット化しました。同じ鉄道会社として、東急さんはいかがですか?

:東急は駅街区土地区画整理の代表者で、長らく担当者として関わってきました。同事業においては通路の切り替えが頻繁に発生しているので、サインのルールが統一されたのは非常に助かりましたね。あとはやはり、これだけ多くの事業者の工事スケジュールを一体的に管理する「交通対策検討会」の話は欠かせないでしょう。

篠塚:鉄道やインフラに関わる工事は道路上でやらざるを得ませんから、どうしても工期や場所が重なってしまう。それを解消するための検討会ですね。各事業者の工事を一体的に管理するというのは、これまであまり前例がないと思いますが、やはり苦労は多かったですか?

:駅周辺のすごく狭い範囲でいろいろな工事が同時進行しますから、夜間工事の時間帯の調整が大きなポイントでした。きつい部分もありましたが、1年先を見越して調整していたからこそ、各事業の工事が円滑に進んだと思います。

篠塚:鉄道事業者や(国土交通省の)東京国道事務所など、公共性の高い事業者がコアメンバーだったからこそできたことかもしれませんね。私も立ち上げや運営のお手伝いをしましたが、事業者が自分たちの事業だけではなく全体を考える、まさに“チーム渋谷”という雰囲気があったなと感じています。

有川: CM会議の設立趣旨を渋谷区さんにも理解していただくことで、円滑に協議ができた点もあると思います。たとえば、渋谷区が管理している喫煙所が駅周辺に十数か所、公衆トイレが駅の東西にひとつずつあって、仮駅舎を建てようとするとこれらに触れないわけにはいきません。そこで、東京国道事務所さんにも会議体メンバーに加わっていただき、関係者が一体で対応していこうという提案をCM会議でしたんです。

小脇:その提案、覚えています。CM会議の面白い点は、通常であれば行政である東京国道事務所と各事業者が協議する形になるところを、東国さん(東京国道事務所)もあくまで事業者の一員という立場で参加していたことですね。全員が同じ方向を向いて、「全体最適」を考えていたから、うまくいっているのかなという印象があります。

篠塚:小脇さんはパシフィックコンサルタンツの計画部門として渋谷の計画全体に関わっていて、CM会議に関しては、私たち日建設計とともにコンサルタントとして事務局をサポートしています。でも実は、CM会議が始まるよりさらに前、2013年2月の交通対策検討会の立ち上げから関わっていますよね。

小脇:はい。そもそも各事業者が共同して進めることになったきっかけは、交通管理者からの厳しい一言ですよね(笑)。A社が工事をするときに道路の車線を1本止めたいと言う。次に、その隣で工事をしているB社も同じように車線を1本止めたいと言う。それぞれは1本ずつでも、いくつも重ねたら道路がふさがってしまいます。そういう状況をどうにかしなさいと言われて、悩みましたね。

:通常は他の事業の動きが読めないので、工期を短めに引いちゃうんですよね。でも蓋を開けてみると、思いどおりにいかないことが多い。このプロジェクトでは、交通対策検討会を通じて、なんとか予定どおりのスケジュールに近づけようと、関係者同士がうまく調整しながら協力して進めてこられたという実感はありますね。

白子:仮にCM会議がなかったとしても、当然ながら各社間で調整はしたと思うんです。ただ、定期的な会議を通して、各事業者の動きが明らかになり、何をいつまでにしなければならないかが明確になったことが、渋谷の再開発の推進力になったのは間違いないと思います。期限などもきっちり定められて、工事が遅れるとどうなるかがわかるから、プレッシャーもありましたし(笑)。

「ビジョン」と「ウェブ」で工事の様子を可視化する

篠塚:渋谷駅中心地区まちづくり調整会議の副座長である内藤廣さんは、「10年、20年も工事をしていたら渋谷に人が来なくなる、だから工事中も情報発信をしっかりするべきだ」とおっしゃっていました。CM会議には工事の調整のほか、再開発の広報を担うという役割もあって、2014年には、情報発信のための施設を設置しようという動きが活発化しました。

小脇:事例として、最初に行ったのが東京メトロさんの「メトロ・スナチカ」の視察。南砂町駅改良工事の内容を年表やジオラマでわかりやすく紹介する施設ですね。

有川:へえ、情報発信のためにこんなことをするんだ、すごいなと思いましたね。しっかりとお金をかけていることも含めて。

篠塚:白子さん自身、インフォボックスの設置にはかなり意気込んでいましたね。

白子:力が入って、ブンブン回していました(笑)。というのも、内藤さんなど学識者の方々から工事の情報発信について話があったときに、まさに今まで東京メトロがやってきたことだと感じたんです。だからこそ、全力で取り組みたいということを、みなさんにお話した記憶があります。

篠塚:そうでしたね。私たちコンサルタントも含めて、みんなでインフォボックスを設置する場所の候補を十数か所出し合って検討を進めて。

:地下広場を提案したら、法律的な制約があって難しいと言われたこともありました。そんなふうに、どんどん場所が絞られていって。最終的には消防や建築的な制約から、ハコをつくって展示するのが難しいということになって。

篠塚:結局、渋谷ヒカリエの連絡デッキに「SHIBUYA INFO VISION」を設置して、各社が40秒の動画をつくって放映することになりました。2016年2月のことですね。

白子:ハコ型の情報発信機能だと見学する人に中に入ってもらう必要がありますが、通路上にあるビジョンは遠くからも見ることができて、すごくPRをしやすかった。結果的には、いい情報発信ができたなと思います。

小脇:監督官庁からは、「通路なので、立ち止まらせてはいけない」という指摘があったのを、「歩きながら見て、ちょうどいい長さで終わるから大丈夫です」と説得して。その代わり、映像の中に掲載されたQRコードを読み取ると、ロングバージョンの動画にアクセスできるような仕掛けも取り入れました。

有川:今もYouTubeにアップされていますね。TwitterやFacebookなどのSNSもトライしましたが、情報発信は簡単ではないということも感じました……。

:苦労があったんですね。今はヒカリエのデッキも閉鎖されましたが、動画はウェブ上で見られますよね?

小脇:2016年の年末には、渋谷川沿いにコンテナを設置して、カフェ型の情報発信施設「Shibuya info βox Supported by ZOJIRUSHI My Bottle」を設置し、ここでもパネルや動画を用いて情報発信を行いました。そして今年の3月には、東京国道事務所の提案でウェブサイト「Shibuya Info Box」をオープン。工事情報や従前写真を公開して、過去から現在まで続く渋谷の変化や、未来像を伝えていこうとしているところです。

※後編は10月15日公開予定です。

現渋谷ストリームの事業地内に設置したShibuya info βox Supported by ZOJIRUSHI My Bottle(2017年7月撤去) 現渋谷ストリームの事業地内に設置したShibuya info βox Supported by ZOJIRUSHI My Bottle(2017年7月撤去)

有川貞久 新宿南エネルギーサービス 代表取締役社長

有川貞久
新宿南エネルギーサービス
代表取締役社長

1990年、筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻を卒業後、東日本旅客鉄道株式会社に入社。主に駅改良に関する自治体・鉄道事業者・開発事業者等との協議・調整業務に従事。これまで東京駅、新宿駅、横浜駅等の改良計画や工事を担当し、渋谷駅は計画・設計段階だった2012年から工事が本格化する2018年まで携わった。

白子慎介 東京地下鉄 改良建設部

白子慎介
東京地下鉄
改良建設部

帝都高速度交通営団に入団後、2014年4月から2017年3月まで改良建設部渋谷基盤整備担当課長。2017年4月から改良建設部へ異動し、第二工事事務所長として現在に至るまで渋谷再開発に関わる。

森正宏 東急 渋谷開発事業部 開発推進グループ区画整理担当 課長

森正宏
東急
渋谷開発事業部
開発推進グループ区画整理担当 課長

1994年、神戸大学工学部土木工学科を卒業後、東京急行電鉄株式会社(現東急株式会社)に入社。2001年より東京メトロ副都心線と東急東横線との相互直通運転に伴う渋谷~代官山間地下化計画、渋谷地下駅建設工事を担当、2008年より渋谷駅街区土地区画整理事業の立ち上げから事業管理、現場の施工管理を担当。

小脇立二 パシフィックコンサルタンツ 総合プロジェクト部 渋谷プレイングマネジャー

小脇立二
パシフィックコンサルタンツ
総合プロジェクト部 渋谷プレイングマネジャー

1983年、早稲田大学理工学部土木工学科を卒業後、パシフィックコンサルタンツに入社。1988年頃より大規模開発に係る交通計画検討業務に従事。その後、特に鉄道駅を中心とした交通結節点整備とまちづくり計画に係わる業務を担当。1990年には二子玉川駅周辺開発に係る人々と、1997年には渋谷駅周辺整備の計画に係わる人々と運命的な出会いを果たす。主に交通施設計画調整に従事し、現在も継続中。

篠塚雄一郎	 日建設計 都市部門 TOD計画部 アソシエイト

篠塚雄一郎
日建設計
都市部門 TOD計画部 アソシエイト

建設コンサルタントにて行政のまちづくり計画や駅周辺開発などに従事後、2008年に日建設計に入社。国内外の鉄道駅を含んだ複合都市開発事業の基盤計画などを中心に、渋谷駅や有楽町駅、下北沢駅などの計画を推進。最近はパブリックスペースの利活用など、従来のコンサルタントの領域を超えた活動にも参加。

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