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製鉄工場プロジェクトの遺伝子と未来への問い

 現在の日建設計・日建グループ各社は、多くのプロジェクトに携わっていますが、それらのプロジェクトを日建設計・日建グループ各社が遂行できる能力を持つに至った経緯や背景には、いくつかの共通ルーツがありました。
 戦後日本経済の復興と成長を支えた「工業生産」のための建築、すなわち「工場建築」は、その重要なルーツの一つとなっています。

5-13 八幡製鉄戸畑転炉工場(現:新日鐵住金八幡製鉄所) 昭和34年(1959)

様々な能力を培った工場プロジェクト

 戦前の長谷部・竹腰建築事務所の時代は、大阪株式取引所や日本生命保険本店本館などを手がける一方で、住友金属工業の国内製鉄所や中国満州の奉天(現在の瀋陽)や鞍山の鋼管工場、住友電気工業の工場、さらには軍需工場である舞鶴海軍工廠など、多くの工場設計の実績を積み重ねていました。戦後に独立した当初の日建設計工務の仕事の半分近くは、戦前の工場建築の実績を踏まえ、高度経済成長と共に登場した製鉄所などの工場プロジェクトで占められていたのです。この工場プロジェクトの実績は、現在の日建グループによる生産・流通施設設計に継承されていると共に、次の3点の「ルーツ」ともなっています。

5-14 住友金属工業和歌山製鉄所(現:新日鐵住金和歌山製鉄所) 昭和40年(1965)

1.東京スカイツリー®に代表されるタワー建築や超高層建築の構造設計

 製鉄所の転炉工場は、最高部高さ60mを超えるものでした。そこでは、極厚鋼板の溶接性能や大型部材の建方・接合技術などの構造設計技術が必要であり、その技術レベルは、超高層建築やタワー建築の構造設計にも匹敵するものだったのです。また、地盤に対する基礎構造設計技術も工場設計で鍛えられました。現在の構造設計技術の重要な「ルーツ」の一端は、製鉄所等の工場建築にあったのです。

2.関西国際空港ターミナルビル等でのプロジェクト・マネージメント

 長さ約500mとなる製鉄所では、長大な建物構造と整合した巨大クレーンガーターや、複雑に配置される転炉などの土木的機械基礎など、多岐にわたる個別要素を全体としてまとめ上げるプロジェクト・マネージメントが必須でした。このプロジェクト・マネージメントの経験は、関西国際空港ターミナルビルや東本願寺真宗本廟御影堂(ごえいどう)修復など多くの大規模プロジェクトにおいて生かされることとなりました。
 現在、これらのプロジェクト・マネジメントの実績は、日建設計の設計部門・プロジェクト開発部門をはじめとし、日建設計コンストラクション・マネジメント、日建設計シビル、日建設計マネジメントソリューションズなど、日建グループ全体の「ルーツ」の一つとなっています。

3.中国などをはじめとする海外プロジェクト

 戦後、日本の製鉄メーカーチームは海外製鉄工場建設の一貫受託を進めていましたが、日建設計は、戦前の海外工場実績を買われ、その建屋設計を委託されることとなりました。海外製鉄工場プロジェクトは、日建設計の海外プロジェクトの先鞭となったのです。
 マレーシアのマラヤワタ製鉄所、上海の宝山製鉄所、ブラジルのミナス・ジェイラス製鉄所など、多くのプロジェクトを手掛けたことが、後に北京の中国国際貿易センターなど大型プロジェクトを受託できる基礎となりました。そして現在、中国等をはじめとする多くの海外プロジェクトに繋がっています。
  • 5-15 東京タワー 昭和33年(1958)

  • 5-16 名古屋テレビ塔 昭和29年(1954)

  • 5-17 神戸ポートタワー 昭和38年(1963)

注:東京タワー、名古屋テレビ塔については、内藤多仲(たちゅう)博士の指導の下、基本設計・実施設計・設計監理を行った。 

未来への問い

 日建設計は戦後、住友から独立した厳しい時代の中で、製鉄工場以外にも様々な分野に積極的に取り組んできました。現在ではその結果、それぞれの分野で一流の仕事を行うプロフェッシナル・グループとなるに至っています。これは、それぞれの時代が必要とする様々な課題に対し、その時代の人々が真摯に取り組んできた結果であると言えるでしょう。その遺伝子を引き継ぐ者として、私達は自身に問い続けています。「今の時代が必要としていることは何か?」 と。
(参考文献)
日建設計 (2000)『設計の技術 日建設計の100年』日建設計
出典
5-13 日建設計(1970)『二十年史』中央公論事業出版
5-14 日建設計工務(1962)『10周年記念作品集』日建設計工務
5-16 提供:名古屋テレビ塔株式会社
5-17 提供:社団法人神戸港振興協会

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