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素材の可能性を追求する —中之島ダイビルと木材会館-
ここで紹介する2つのプロジェクトは、素材の持つ可能性を徹底的に追求し、新しい建築の可能性を切り拓いた事例です。素材の持つ力には、何故か心を捉えるものがあります。
レゴ・ブロックのように、鉄骨入りのコンクリート成形材を組み立て上げる
コンクリート成形材のことを、プレキャスト・コンクリート(略してPC)と呼んでいますが、鉄骨入りPC工法で35階の超高層ビルができたのは、この中之島ダイビルが日本で初めてであり画期的なことでした。この設計により、窓廻りには鉄骨柱がなくスッキリと使い易い開放感のあるオフィスとなりました。同時に中之島ダイビルは、歴史的環境の中に建つ陰影の豊かな品格あるオフィスビルとなっています。
工場で作られる鉄骨入りコンクリート成形部材は、外部仕上げとなる厚さ3cmの花崗石がコンクリートと一体になるよう製作されています。構造柱と仕上げの石貼りと、エネルギー消費を抑える彫りの深い縦型ルーバーが、別々のものではなく一つのものとして実現しました。また、現場で組み立て上げる接合部にも特別な工夫がなされており、このような建物が実現できたのは、PC部材を製作した人々や、組み上げた建設会社の人々の努力には多大なものがあります。
9-32 中之島ダイビル 平成21年(2009)
9-33 使い勝手の障害になる窓際の柱がない基準階オフィス
9-34 基準階窓廻りの矩計図・平面詳細図・立面展開図
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9-35 クレーンで吊り込まれるSRC-PC柱ブロック
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9-36 SRC-PCブロック間の鉄骨は溶接接合される
木の魅力を示すランドマークとして、都心のオフィスビルをつくる
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9-37 木材会館 平成21年(2009)
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9-38 最上階の大ホール。上部の木材は構造体であり、かつ空からの自然光を取り入れることのできる架構ともなっている。
9-39 追っ掛け大栓継ぎ手の加工を終えた大ホールの梁部材
日本では、戦後に植林した木が伐採期を迎えていますが、輸入材との価格競合で国産材の需要が低迷しています。この木材会館で採用された技術や工夫が、都市建築でも木を活用できるというプロトタイプになってくれることを願っています。
9-40 休憩や交流の場となるテラス。この天井内には空調の室外機が組み込まれている。
9-41 最上階の木造架構を示すホール断面詳細図
9-42 北西から見た外観 最上部が大ホール
(2009)『ディテール2009年10月号』彰国社
(2009)『日経アーチテクチャー 2009年9月14日号 』日経BP社
(2010)『建築技術 No.720』建築技術
9-37,40 撮影:雁光舎(野田東徳)
9-38,42 撮影:ナカサアンドパートナーズ