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現代イスラム社会の人々と共に
イスラム社会と同様に非西欧文明から出発した日本社会が、伝統的な文化を保ちつつ欧米諸国と肩を並べる経済力や技術水準を築いたことに、イスラムの人々は共感を持っています。ここでは、イスラム文化に敬意を払いながら進められた、イスラム金融に関係する2つのプロジェクトを取り上げました。
イスラム開発銀行本部ビル —相互扶助のシンボル-
昭和46年(1971)、イスラム諸国を束ねるイスラム諸国会議機構(OIC)が創設され、シャリーアと呼ばれるイスラムの教義に基づく規範と経済の考え方を統合することが課題のひとつとなりました。昭和48年(1973)、シャリーアに基づいて相互扶助システムの礎石となるイスラム開発銀行が創設され、現在、50以上のイスラム諸国における開発援助が進められています。その本部が置かれたサウジアラビア第2の大都市ジェッダは、聖地メッカへの巡礼者の中継地点として知られており、紅海に面する貿易港として繁栄してきた都市です。
11-24 イスラム開発銀行本部ビル 平成5年(1993)
建物は銀行本部と研究・研修所という2つの独立した機能の棟が、大きな屋根の下に一体化された構成です。2つの棟に囲まれた光庭から大屋根を見上げると、イスラム紋様を用いた透かし彫りのような象徴的な光採りが目に入ります。イスラム建築を特徴づける開口部の少ない厚い外壁と、内側の光庭に開かれた豊かな空間がデザインのテーマで、随所にイスラム建築特有の空間概念や慣習などが反映されました。その彫りの深い陰影が織りなす彫刻的な建物の全体像は、地域のランドマークになるだけではなく、「相互扶助」というイスラム社会全体の重要な考え方を体現するシンボルとなっています。
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11-25 建物全体が彫りの深い陰影をつくり出しており、地域のランドマークとしての役割を果たしている。
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11-26 中央に静かな噴水のあるエントランスホール。水は、イスラム文化では「楽園」をイメージさせるシンボル的な意味を持つ。
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11-27 イスラム様式の「リワク」と呼ばれる回廊(右)と幾何学紋様の庭園
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11-28 光庭から、イスラム紋様の光採りのある屋根を見上げる。
タダウル・タワー(サウジアラビア証券取引所)
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11-29 タダウル・タワー(サウジアラビア証券取引所)
平成28年(2016)竣工予定 -
11-30 35階~41階の最上階部は、滝のあるアトリウムを中央に抱くタダウル本社。「王冠(CROWN)」と呼ばれる頂部は、アトリウムへ制御された光を導く。
11-31 KAFD中心地区マスタープラン。赤印が、タダウル・タワー。
様々な建築的手法が込められたタダウル・タワーは、各種設備の高度な制御システムなどの環境技術と組み合わせ、LEED(アメリカの環境建築基準)のGOLDの認証の取得を予定するサスティナブル建築となりました。
11-32 断熱性能の高いLow-Eガラスによるカーテンウォールの窓廻り。Horizontal Finにより細かな影が生み出されている。また窓上部の欄間部分には、より断熱性能の高いLow-Eガラスが用いられている。
11-33 金融情報に気軽に接することができるタダウル・フォーラム
新渡戸 稲造(奈良本辰也訳)(2009)『英語と日本語で読む『武士道』』三笠書房
井筒 俊彦(1982)『イスラム文化—その根底にあるもの』岩波書店
宮田 律 (2001)『現代イスラムの潮流』集英社新書
「Islamic Development Bank ホームページ」(2014)
「Tadawul ホームページ」(2014)
11-24~28 撮影:Richard Bryant