コストマネジメントレポート

2022年4-6月号を掲載しました。
「材料価格値上げの動きが拡大 抑えきれない建設コストの上昇圧力」

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「コストマネジメントレポート」(季報)は、国内外の経済情勢を概観し、設計事務所トップシェアの実績から得られる豊富なコストデータを活かし、中立的な視点での独自の建設市場分析結果をタイムリーにお伝えしていきます。

※本レポートは情報提供を目的として日建設計エンジニアリング部門コストマネジメントグループが作成しています。記載の内容等は作成時点のものであり、完全性を保証するものではありません。内容等は予告なしに変更する場合があります。本レポートの無断転載を禁じます。

材料価格値上げの動きが拡大
抑えきれない建設コストの上昇圧力

受注高は堅調に推移するも
厳しい競争環境が続く

2021年度の建築受注高は堅調に推移している。大手50社の21年4月から22年2月までの受注高はリーマンショック以降で最高水準となった(図1)。一方で、大手施工会社*の完成工事利益率は低下が続いており、受注時の競争は厳しい状況が続いている。
*大手施工会社:大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設の4社。竹中工務店は四半期決算非開示のため対象外。

建築費指数と材料価格指数の乖離が拡大

建設用材料価格は、原油高などの影響を受けて急騰。価格指数は1年で18%上昇した(図2)。一方、労務費・施工者利益を含めた実勢建築費の変動を示す日建設計標準建築費指数(NSBPI)は、この1年ほぼ横ばいで推移しており、建設コストの押上げ圧力を施工者が抑えてきたことが分かる。
  • 図1 建築受注高と大手施工会社4社の完成工事利益率の推移 図1 建築受注高と大手施工会社4社の完成工事利益率の推移
    資料:国土交通省「建設工事受注動態統計調査(大手50社)」、各種決算資料より作成。完成工事利益率の21年度の数値は12月時点の数値。

  • 図2 日建設計標準建築費指数と建設用材料の物価指数の推移 図2 日建設計標準建築費指数と建設用材料の物価指数の推移
    資料:日本銀行「企業物価指数 需要段階別・用途別指数」より作成

資材価格変動が建設コストに与える影響は一部

鋼材価格やこれに影響する原油価格・為替の変動が建設コストに与える影響を、直近1年の変動率をもとに試算すると、原油価格は+1.6%、為替は+1.1%、鋼材価格は+2.5%となった(図3)。これは価格(為替)変動が全て反映される前提の試算であるが、図2で見たとおり実際の施工者見積はこの通りではない。施工者見積の各単価をみると、鉄筋やガラスなどメーカー公表の上昇率がほぼ反映されているものがある一方、石膏ボードやパッケージエアコン、盤類、発電機などでは、現時点の反映は一部に限られる(図4)。

今後の建設物価上昇への備えが重要に

多くのメーカーが4月以降の値上げを表明しており、資材価格上昇が落ち着く要因が見当たらない現状を踏まえると、今後は資材価格上昇を見越して見積価格に反映する案件が増えることが予想される。価格競争を促す環境の整備や物価上昇分を相殺する減額変更案の検討、予備費の積み増しなど、プロジェクトの状況に応じた事前の備えが重要となっている。
  • 図3 原油・為替・鋼材の変動による建設コストへの影響 図3 原油・為替・鋼材の変動による建設コストへの影響
    資料:The World Bank「Commodity Prices」、日本銀行「為替相場」、経済調査会「積算資料」、埼玉県「価格変動分析ツール」、日建設計実績より作成
    ※22年3月時点の数値

  • 図4 メーカーの価格改定と施工者見積価格への反映状況 図4 メーカーの価格改定と施工者見積価格への反映状況
    資料:各社公表資料、日建設計実績より作成
    ※22年3月時点の数値

NSBPIは三地区とも上昇

日建設計標準建築費指数NSBPI

首都圏、関西圏、東海圏ともに総合指数は前期比で約3%上昇した。受注時の厳しい競争環境は続いているが、施工者は資材価格上昇分を吸収しきれず、提出見積に反映している。
前期までは鋼材や一部の設備資器材等の価格上昇分をその他工種で調整し、見積総額の上昇幅を抑える傾向にあったが、今期は、建築仕上、設備の労務費の価格上昇に加え、鋼材や設備資器材の価格上昇が継続したことにより、前期よりも上昇幅が拡大している。
  • 図5 NSBPIの推移 図5 NSBPIの推移

  • 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度

鋼材価格は一服後に再上昇の兆し

原材料高などを要因に上昇が続いていた鋼材価格は、21年12月以降横ばいで推移していたが、22年3月に札幌を除く4地区で再び上昇に転じた(図7)。日本製鉄や東京製鐵など鉄鋼メーカーは追加値上げを表明しており、今後も上昇傾向が続く可能性が高く注意が必要である。

労働者不足感が強まる

労働者不足率は2112月に急拡大した(8)。特に関東地方での鉄筋工(建築)の不足率が高まっており、大規模再開発などによる需給バランスの悪化が窺える。

  • 図7 鋼材価格(普通鋼)の推移 図7 鋼材価格(普通鋼)の推移
    資料:経済調査会「積算資料」より作成

  • 図8 建設技能労働者過不足率の推移 図8 建設技能労働者過不足率の推移
    資料:国土交通省「建設労働需給調査(8職種計・全国・季節調整値)」より作成

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