コストマネジメントレポート

2022年1-3月号を掲載しました。
「競争環境が続くも材料価格の上昇が建設コストを押し上げる」

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「コストマネジメントレポート」(季報)は、国内外の経済情勢を概観し、設計事務所トップシェアの実績から得られる豊富なコストデータを活かし、中立的な視点での独自の建設市場分析結果をタイムリーにお伝えしていきます。

※本レポートは情報提供を目的として日建設計エンジニアリング部門コストマネジメントグループが作成しています。記載の内容等は作成時点のものであり、完全性を保証するものではありません。内容等は予告なしに変更する場合があります。本レポートの無断転載を禁じます。

競争環境が続くも材料価格の上昇が建設コストを押し上げる

受注高・手持ち工事高は堅調に推移

大手施工会社*の2021年度上期の受注高は19年度と同水準、手持ち工事高は高い水準を維持しており、工事量は堅調な状況が窺える(図1)。
*大手施工会社:大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設の4社。竹中工務店は四半期決算非開示のため対象外。

競争環境は厳しい状況が続く

一方で受注時の競争環境は厳しい状況が続いている。大手施工会社の完成工事利益率は17年度以降減少している。また、受注済み工事における損失見込額である工事損失引当金が上昇しており、既受注案件が厳しい競争環境にあったことが分かる(図2)。今後の受注環境についても、引続き厳しい競争環境継続を予測していることが各社決算資料より伺える。
  • 図1 大手施工会社4社の受注高・手持ち工事高の推移 図1 大手施工会社4社の受注高・手持ち工事高の推移
    資料:各社決算資料より作成
    21年度の手持ち工事高は9月時点の数値

  • 図2 大手施工会社4社の完成工事利益率・工事損失引当金の推移 図2 大手施工会社4社の完成工事利益率・工事損失引当金の推移
    資料:各社決算資料より作成。 21年度の数値は9月時点の数値。
       完成工事利益率=4社平均、工事損失引当金=4社合計

大型工事の増加が競争を生む一因

工事量が堅調な中、厳しい競争環境が続く要因の一つとして工事規模の大型化が挙げられる。工事費が数百億円を超える大型工事の受注可否が受注計画に大きく影響するため、各社とも受注確保に対する意欲が高く、厳しい競争が発生しやすい状況にある。実際に東京23区内の1物件当たり10万㎡以上の事務所供給量(竣工時点)は、20年が突出しているが全体的に増加傾向であることが分かる(図3)。

材料の値上げが拡大し建設コストが上昇に転じる

厳しい競争環境下ではあるが、材料価格上昇による建設コストの押上げ圧力を施工者が抑えきれなくなっている。前号で挙げたメーカー以外にもLIXILが22年4月からの値上げを表明するなど材料価格の値上げの動きが拡大している。建設用材料の価格動向を調査した物価指数をみると、21年11月の指数は21年1月比で+17%と1年足らずで急上昇している(図4)。
材料価格が元の水準まで下がる見込みが少ない中、施工者は受注時採算の悪化を覚悟して上昇分のコストを吸収することは困難と思われ、建設物価は上昇に転じると考える。
  • 図3 東京23区内の1件当たり10万㎡以上の 事務所供給量の推移:後方3年の移動平均 図3 東京23区内の1件当たり10万㎡以上の事務所供給量の推移:後方3年の移動平均
    資料:森ビル「東京23区の大規模オフィスビル市場動向調査」より作成

  • 図4 建設用材料の物価指数の推移 図4 建設用材料の物価指数の推移
    資料:日本銀行「企業物価指数 需要段階別・用途別指数」より作成

NSBPIは三地区とも小幅上昇

日建設計標準建築費指数NSBPI

首都圏、関西圏、東海圏ともに総合指数は前期比で上昇。受注時の厳しい競争環境下であるが、鋼材や電気銅など資材価格の上昇が続いている。
建築、設備とも、施工者は資材価格上昇分を吸収しきれず、提出見積に反映する傾向が強まっている。
  • 図5 NSBPIの推移 図5 NSBPIの推移

  • 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度

鋼材価格は上昇が続く木材価格は上昇に一服感

鋼材価格の値上げが浸透しており、前号(9月)時点と比べ各地区は7~9%上昇している(図7)。中国の粗鋼減産により中国が輸入に頼っていた鉄鉱石の価格は減少したが、原料炭など他の原材料は高騰が続いており、鋼材価格は高値を維持する見込みである。
木材価格はウッドショックによる価格上昇が続いていたが、21年8月以降は横ばい状態となっている。

労働者不足感は低い状態で推移

21年に入り増減幅は拡大しているが、20年4月以降の労働者不足率が低い水準のまま推移してる状況は変わらない(図9)。一方で、建設業の就業者数の減少・高齢化は進行しており、労務単価には引き続き注意が必要である。
  • 図7 鋼材価格(普通鋼)の推移 図7 鋼材価格(普通鋼)の推移
    資料:経済調査会「積算資料」より作成

  • 図8 木材価格の推移 図8 木材価格の推移
    資料:経済調査会「積算資料」より作成

  • 図9 建設技能労働者過不足率の推移 図9 建設技能労働者過不足率の推移
    資料:国土交通省「建設労働需給調査(8職種計・全国・季節調整値)」より作成

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