CROSSTALK

#03

職種間座談会(設備設計×意匠設計)

「環境建築」という言葉に象徴されるように、建物における省エネルギーやカーボンニュートラルへの取り組みは、建築業界の最重要課題といっても過言ではありません。そしてその実現の核となるのが、電気や空調衛生等、環境・エネルギーに係る設備設計を行うエンジニアです。ここでは設備設計、意匠設計それぞれの立場から「環境建築」の実現に向けた取り組みや関わり方を中心に語り合ってもらいました。

MEMBER PROFILE

安澤 百合子

エンジニアリング部門
設備設計グループ
2003年入社 新卒入社

入社後、再開発建物や事務所ビルをはじめ、多様な建物の空調衛生設備設計を担当。用途や地域性を考慮した環境性能の高い建物の実現を自身のテーマとしている。

吉田 亘佑

エンジニアリング部門
設備設計グループ
2016年入社 新卒入社

空調衛生設備設計者として、多種多様な建物に携わってきた。近年では設備設計の枠にとらわれない、環境建築の実現に向けた提案を行っている。

山口 慶

エンジニアリング部門
設備設計グループ
2015年入社 キャリア入社

前職は電気系サブコン。施工管理を担当していたが、設計分野への挑戦意欲が沸き、転職を決意した。入社以来、電気の設備設計を担当している。

西川 昌志

設計監理部門
設計グループ
2012年入社 新卒入社

研究所、オフィスビル、ホテル等の意匠設計を担当。特に研究所の建築に多数の実績を持つ。これまで、国内外で数多くのプロジェクトに参加。

千葉 美幸

設計監理部門
設計グループ
2011年入社 新卒入社

意匠設計者として、海外プロジェクトから小さなレストランまで、様々な業務を担当してきた。現在、某本社オフィスビルの基本設計を担当している。

袁 碩

設計監理部門
設計グループ
2013年入社 新卒入社

中国・北京出身、日本育ち。NIKKEN ACTIVITY DESIGN Labを経て、現在は設計監理部門にて国内と中国のワークプレイスを中心としたプロジェクトで意匠設計を担当。

Theme 1

最初に、入社理由をお聞かせください。

安澤
私は元々、CO2排出量低減等の地球温暖化対策に関わる職に就きたいと考えていました。様々な立場から地球温暖化対策へアプローチする方法がある中で着目したのが建物です。建物から排出されるCO2排出量が一定割合ある中で、省エネ性能の高い建物を考える設備設計者になりたいと考えたのです。日建設計は、多彩な用途の建物の設計に携わっており、より多くのチャレンジができると思い入社を決めました。
吉田
私も、様々な用途の建物に携われることに魅力を感じて当社を選びました。実際入社から現在まで、所属するグループに得意とする分野はあるものの、担当する建物種別が限定されることはありません。何でもチャレンジできることは当社の大きな魅力だと思いますね。またインターンシップに参加した際、意匠設計とエンジニアリングの間に壁がないことを感じました。この関係性の良さも日建設計を選んだ理由の一つです。
山口
私は前職の電気サブコンで施工管理を担当していました。設計者と話をしていると、プロジェクト全体のビジョンを見据えて仕事を進めていることを感じ、設計という職への強い憧れと挑戦意欲が生まれました。日建設計への入社は、多様な建築を手がけていること、また、社会をリードする総合設計事務所であり、自分の能力を発揮できる環境と感じて入社を決めました。
西川
組織設計事務所やゼネコンの設計部等の中でも、一番デザインにしっかり取り組んでいるのが日建設計だと感じました。日本の歴史・文化的な価値観がデザインの芯にあることにも惹かれました。当初、硬そうな雰囲気も感じましたが、それも一つのフィロソフィーであり、そのストイックさが継承されてきた企業文化の一つなのだと感じています。
千葉
私は、日建設計であれば、大きな建物や公共性の高い建築を手がけられると感じたことが入社理由の一つです。若手でも自由にデザインを提案し挑戦できる環境であることにも魅力を感じました。
日建設計の手掛けるプロジェクトのデザインとエンジニアリングが融合した作品性の高さに惹かれました。それは異分野の担当者同士の良きコミュニケーションとチャレンジングな姿勢から生まれているのだと思います。また、グローバルに活躍できるチャンスがあることも入社を決めた理由の一つです。

Theme 2

現在の業務内容とやりがいを教えてください。

吉田
オフィスや放送局、商業施設、学校、ホテル、アリーナ 球場、銀行、休憩所等々、多種多様な建物の空調衛生設備設計を担当しています。これだけ幅広い建物に携われていること自体にやりがいを感じますね。
安澤
私も吉田さん同様、空調衛生設備設計を担当しており、最近は再開発建物やオフィスビル等に携わっています。省エネルギーや快適性、使い勝手などに配慮しながら設計しますが、無事竣工したときに得られる達成感と安心感がやりがいに繋がっています。
山口
私も多種多様な建物の電気設計を担当しています。前職の電気サブコン時代の経験を活かして、踏み込んだ設計を遂行した際、評価をいただいたときなどやりがいを感じますね。各種機器のカタログ設計ではなく、いかに自身のアイデアとクリエイティビティを込められるか。そこが重要な点だと思います。
千葉
現在はデータセンターの設計監理、本社オフィスビルの基本設計をメインの業務としています。これまで海外プロジェクトや小さなレストランまで大小様々な建物を設計してきました。建築は一品生産なので常に状況は異なります。そこが仕事の面白さであり、実際に竣工した建物が使われているのを見るとやりがいを感じますね。
私は、国内と中国のプロジェクトの意匠設計を担当しています。千葉さんがおっしゃたように建築は一品生産であり、プロジェクトは一期一会。常に新しい発見や学びがあります。それが仕事のやりがいや喜びに繋がっていますね。
西川
意匠設計に向き合っている際、デザインのブレイクスルーがあるときなど、やりがいを感じます。竣工時はもちろん感慨深いものがありますが、個人的には建設途中の状態の、未完成の実物と想像力で補っているところの割合が毎日のように変化していく様子は、一番高揚感があります。

Theme 3

環境負荷低減や省エネの取り組みについて教えてください。

安澤
政府のカーボンニュートラル宣言を受けて建物の省エネに関する法規制も強化される等の背景もあって、建物の省エネ対策は、建物を計画する際の重要課題の一つとなっています。そのため、プロジェクトの早い段階から私たち設備設計と意匠設計の担当者が、連携・協働して省エネ達成に向けた取り組みを進めています。
山口
建物の省エネやカーボンニュートラルを主導していくのが、設備設計者の役割であると自覚しています。プロジェクトの上流の段階で、省エネ実現のために建物の骨格をどうするか、意匠設計者と議論を深めていくのが、プロジェクトの進め方ですね。
西川
設備設計者と私たち意匠設計者が目標を共有することが重要だと思います。カーボンニュートラルはコンセプトの上段にあり、設備設計者と意見をぶつけ合って着地点を見出していきます。実は入社時は、設備設計者は装置や機械の設計のみをするものだと思っていました。でも入社後は建物に関わる全員が当事者意識を持ってそれぞれの専門的な立場から建築のあり方を模索していく重要さを常に感じています。環境対策においては、なおさらですね。
吉田
西川さんが考えていた通り、設備設計者は、確かに装置や機械の設計を担うわけですが、そうした設備設計の枠にとらわれない取り組みが進んでいます。ZEB(Net Zero Energy Building=ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やカーボンニュートラル、環境提案など、環境対策は建築の喫緊の課題であることを日々痛感しています。
山口
私たち設備設計者は、たとえば、LED照明や高効率空調・給湯設備、断熱性能の高い窓やサッシを提案していきますが、省エネ性能の高い設備を単に導入するだけでなく、よりプロアクティブな姿勢が求められると思います。吉田さんの具体的な取り組みを教えてください。
吉田
現在取り組んでいる休憩所が、非常にプロアクティブでチャレンジングな取り組みです。ZEB、そしてカーボンニュートラルを達成する建物。最大のポイントは、温湿度条件を緩和するなどによって空調設備を極力導入しないという点にあります。直達日射を遮るため庇を大きく取り、自然の風の流れを活用しました。今後、来所するお客様にご理解していただく必要がありますが、環境負荷低減に向けた大胆な試みだと思っています。安澤さんも特色ある省エネ手法に取り組みましたよね。
安澤
はい、建物の計画をする際には建物が建つ土地や気候に注目します。土地にはそれぞれに特徴があり、その特色を省エネに活用できないかどうか。その視点から考えることは多いですね。最近では、地下水が豊富な土地の特色を活かして、地下水を熱源に利用する計画に取り組みました。地下水の温度は、夏は外気温より低く冬は外気温より高いので、熱源として利用することで省エネ性を高めた計画としました。
千葉
私もプランニングから、いわゆる環境設計を意識することが多くなりました。たとえば建て替えの建物では、地下部分は既存の躯体を極力残すことで環境負荷低減を図るといった、最近トレンドの試みにも取り組んでいます。またオフィスビルを例にとると、執務スペースとエレベーターなどのコア部分をどのように配置するか、方位や周辺状況によっても環境負荷は異なります。計画初期段階から省エネに最適な設計を心掛けています。
省エネにおいて、ほとんどのユーザーはそのことに気付かず建物を利用していますよね。私たち、設計する側がエンジニアリングを通して様々な省エネに取り組むことは当たり前ですが、よりデザインの力でユーザーに省エネに意識的になってもらうこと、人々の意識を変えていくナラティブが必要だと思います。だからこそ省エネ達成のための数値を下げるだけではなく、人々のエシカルな(倫理的な)感情に訴えかけられる建築を設備設計と共に考えていきたいですね。それがより本質的で持続的な省エネを実現することに繋がっていくと思いますね。

Theme 4

設備設計者と意匠設計者の連携についてお聞かせください。

吉田
意匠設計、設備設計、構造設計、それぞれのアイデアが融合されているのが、日建設計の手がけるプロジェクトの魅力だと思います。特に、省エネなどの環境提案の実践においては、意匠設計者と設備設計者の相互理解、意見交換が欠かせないと思いますね。最近は、それぞれの専門分野の人が自分だけの分野に留まらず広い視野から提案する傾向が強くなりました。
千葉
そうですね。みんなで意見を出し合うということがポイントだと思います。話し合いの過程では意見がぶつかり合うこともありますが、その中で最適な案に収斂させていくことが、より優れた創造につながっていくと思います。
西川
私は約10年前に入社しましたが、当時に比べて設備設計者と会話・議論する機会、一緒に建物を生み出しているという意識がより強くなりました。やはり、建物に求められるCO2削減等の環境対応の実践においては、設備設計者が有する知見が欠かせません。意匠設計の領域や全体構成にも踏み込んで提案・主張してくれる設備設計の担当者も多くなりましたね。
山口
まずクリアしなければいけない課題は、私たち設備設計者と意匠設計者の意思と、クライアントの考えに齟齬が生まれることもあるということです。提案が必ずしもクライアント要望ではないことからスタートすることもあります。これを実現するには、熱意を持ってクライアントと接し、提案の魅力・価値を共有していくことが重要で、これは意匠・設備それぞれの設計者の重要な役割だと思います。
安澤
確かに、クライアントニーズに加え社会ニーズも踏まえたバランス感覚がありつつ特色ある提案をしていくことが重要だと思います。そのためにも、自己研鑽の継続は欠かせないですね。
意匠設計と設備設計の違いの一つは、担当しているプロジェクトの数だと思います。設備設計者は、意匠設計者に比べてプロジェクトを数多く担当しており、より多種多様なクライアントや建物に携わっているだけに、多角的に世の中の流れやクライアントの価値観を把握しているケースも少なくない。だから今まで以上に、設備設計者が建築全体により深く関わってもらえることに期待したいですね。
山口
担当者にもよりますが、私の場合、プロジェクトの初期の段階から、かなり踏み込んで意匠設計に提案・プレゼンしていますし、それを歓迎してくれる環境があると感じています。意匠設計者の熱量と同じ熱量で打ち返し合う。それはこの仕事の醍醐味の一つだと思いますね。
西川
設備設計者は、一人ひとりがテーマを持って業務に取り組んでいる印象がありますね。定期的に開かれる社内の討論会などを見ると、それぞれが個性や想いを持っていることを実感します。
吉田
私の考えでは、設備設計者はチームとして目指すべきものを見据えつつも一人一人がそれぞれの理念を有していると思っています。だから西川さんが指摘するようにテーマ性を持っている。そしてそれらを横展開で共有することで、チームとしての力が発揮できているのだと思います。
千葉
今建築は、環境建築として進化すべき時が来ていると思っています。進化のためには意匠設計と設備設計の強い連携は不可欠であり、その連携を強くしより良い環境建築を設計するためにも、意匠設計者、設備設計者、それぞれ「攻めの姿勢」が必要だと思います。日建設計の過去の代表作を見ると、その時代での攻めの姿勢に驚きます。そのDNAを継承していきたいと思っています。

Theme 5

今後、社会で求められる日建設計の役割はどのようなものでしょうか。

吉田
これまでは、コストをかける足し算の設計が主流だったと思います。「他では真似できない建物を作る」といったことに重きを置いている時代もありました。しかしこれからは、他でも真似できるような、コストをかけない引き算の設計による環境建築のプロトタイプをランドマーク的に作っていくことも、私たちの役割の一つだと思っています。
千葉
そうですね。環境建築を設計する場合、そこには様々なアプローチがありますが、たとえば快適で利便性が高く、利用者や街の人々に愛される建築を設計できたならば、そして100年使われ続けたならば環境負荷低減に大きく貢献すると思います。
山口
持続可能な社会に向けた環境建築を切り拓いていくのが、私たちの使命だと思います。設備設計者としては、建築のみならず社会全体の重要な課題であり、密接な関わりがある環境問題とエネルギー問題の解決に向けた取り組みを加速させていきたいと考えています。
西川
はい。山口さんが指摘された社会課題に対して、意匠設計、設備設計、構造設計の皆が一丸となって取り組んでいく必要があると思います。また設備設計者と共に、国内外問わず、広義の社会環境デザインに取り組み、デザインアーキテクトとして認められるようなレベルに進化したいと思っています。
安澤
今後、これまで以上に建物内に関わらず建物外も、空間の価値向上に対する提案が求められてくると思います。面白い提案や新しい概念を取り込んだ提案など、わくわく感を展開させつつ、社会課題の解決に向けた環境建築のあり方を模索していきたいと思っています。
SDGsに象徴されるように、時代の変化に合わせて都市や建築のデザインを通して人々の生活・活動に寄与し続けることが日建設計の役割だと思います。意匠設計者としても形や物としてのデザインはもちろんのこと、環境や設備を含めた多様なパラメーターに対する編集力やコミュニケーション力がますます重要になってくると思います。