CROSSTALK

#04

職種間座談会
(構造設計×意匠設計)

建築業界の大きなトレンドの一つが、デジタル化でありDX推進です。日建設計は業界に先駆けて、意匠・構造それぞれの設計におけるデジタル化に取り組んできましたが、その流れはここへきて加速しています。特に構造設計におけるデジタル化は、従来の構造設計の建築への関わり方を変え、今までとは異なる構造設計の魅力を生み出しつつあります。ここでは構造設計、意匠設計それぞれの立場から、その役割や両者の連携、デジタル化、さらにはグローバル化に向けた取り組みを語り合ってもらいました。

MEMBER PROFILE

風間 宏樹

エンジニアリング部門
構造設計グループ
2005年入社 新卒入社

入社以来、構造設計者として教育施設・オフィスビルからスポーツ施設まで、さまざまなプロジェクトに参加してきた。構造設計のデジタル化を進めてきた主要メンバーの一人。

重松 瑞樹

エンジニアリング部門
構造設計グループ
2010年入社 新卒入社

近年は、超高層の建物や免震の図書館などの構造設計を担当している。兼務でDEL(Digital Engineering Lab)に所属。先端技術を用いたデジタル化に取り組んでいる。

畔見 徳真

エンジニアリング部門
構造設計グループ
2020年入社 新卒入社

現在は研究所、アリーナ、再開発プロジェクトなど、規模の異なる複数の案件に携わっている。大学時代からデジタルを活用した構造設計を志向していた。

島田 英里子

設計監理部門
テックデザイングループ
2018年入社 新卒入社

意匠設計と構造設計の双方に関わり、プロジェクトの設計検討や技術支援を担当。DEL(Digital Engineering Lab)に所属し、主に外装に関わる支援業務を行っている。

三浦 健

設計監理部門
設計グループ
2015年入社 キャリア入社

イタリアのアトリエ事務所に勤務後帰国し、日建設計に入社。ホテルやオフィスビル、スポーツ施設など多彩な建築物の意匠設計を手がけている。

野村 映之

設計監理部門
グローバルデザイングループ
2014年入社 キャリア入社

大学院進学で渡英。修了後、ロンドンの設計事務所に勤務。その後帰国し日建設計に入社。グローバル化のフロントで、現在国内外案件を複数担当している。

Theme 1

最初に、入社理由をお聞かせください。

風間
学生時代に、デザインと技術が融合した建物の設計を行っていると感じ興味を持ちました。その後日建設計でアルバイトをすることになったのですが、その経験を通じて、社内の風通しのよさ、設計に対する社員の皆さんの熱意を感じぜひ入社して一緒に働きたいと思うようになりました。
重松
私は、超高層やスタジアムといった大空間で構造設計が要となる建物を設計したいと考えていました。日建設計であれば、様々な用途 ・規模の設計に携わることができる可能性があり、自分のやりたいことが実現できると感じて入社を決めました。また学生の頃に、居心地が良くて、度々利用していた商業施設のアーケード空間があったのですが、その建物を日建設計が設計したことを知ったことで志望度がより高まりました。
畔見
就職に際しては、ゼネコンの設計部門と迷っていましたが、施工者とは独立した立場で設計を追求できるポジションに興味を持ち、設計事務所での構造設計の道を志望しました。また学生時代に3Dモデリングツールの「Rhinoceros」と「Grasshopper」をよく使用していたため、それらのツールを活かした設計に興味をもっており、設計事務所の中で活用が進んでいると感じた日建設計を志望しました。
島田
大きな建物や多彩な用途の建物など幅広く手がけていること、また、デザインとエンジニアリングなど様々な専門分野の方が協働して融合した建築をつくりあげていることに惹かれました。当時デジタル技術をいち早く設計に活用しているイメージがあり、新しいことにもチャレンジしていける環境に魅力を感じて入社を決めました。
三浦
私は2015年の入社ですが、当時は国際的なスポーツ競技のメインスタジアムとなる、8万人収容のスポーツ施設の新築プロジェクトが進んでおり、国内外から注目されていました。プロジェクトに日建設計が参画していることを知り、このプロジェクトに携わりたいと思い入社を志望。最終的に設計は別案に変更されましたが、このプロジェクトに触れることができたのは、私にとってきっかけとなっています。
野村
私も同様ですね。入社前、ロンドンの設計事務所で空港や駅舎及びスポーツ施設などの大規模建築の設計を手がけていました。三浦さんが話された、メインスタジアム新築プロジェクトに加え、スポーツ施設設計でもっと海外に打って出るというビジョンにも魅かれ、その一員になれればと思い入社を決めました。

Theme 2

現在の役割とやりがいを教えてください。

風間
構造設計者として複数のプロジェクトに関与しています。考えて、議論して、計算して、図面を作ったものが実際の建物として形になる姿を見ることができるのはやはり大きなやりがいです。そして、クライアントや意匠設計者が考える建築・空間をどうしたら合理性をもちながら、実際の建物として形にすることができるのかを考えること、それが一番の役割であり難しいところだと感じています。
畔見
様々な規模、用途に挑戦できること、またそれぞれで異なる難しさ楽しさが味わえることにやりがいを感じています。今日集まったメンバーでは私が一番若いですが、年次に関わらず入社初期から設計の多くを任せてもらえる点もやりがいの一つです。初担当プロジェクトから設計を一から任せてもらえることには驚きました。構造設計者の役割は、架構や部材のサイズ、形状を合理的に、無駄なく、美しく設計することにあると思います。構造は計算がメインのように思われがちですが、構造が主導で建築の形を決める場面も意外と多いように感じています。
重松
現在は建物そのものの構造設計に加えて、兼務でDELに所属しており、張力構造や構造最適化などの先端技術を用いた特殊な建物の構造設計にも携わっています。やりがいは、多くの関係者が想いを込めて作りこんだ設計図が、実際の建物として竣工を迎えたとき。常に包括的な視点と柔軟な思考を持って、楽しみながら業務に取り組むことを大切にしています。
野村
クライアントやコンサルタントが外資系の場合が多く、その中で意匠設計及びコーディネーションを主に担当しています。得意分野であるスポーツ施設や海外での経験を生かせる業務にやりがいを感じています。国内外問わず、共同設計事務所の多くのメンバーと一緒に仕事をする機会が多く、刺激的な環境です。ただ一方で、人数が多ければ多いほど最終的に一つの案にまとめるのはひと苦労。それをまとめ上げるのも私の役割の一つと自覚しています。
三浦
最近はスポーツ施設を担当することが多くなりました。巨大な空間に人々が集まって熱狂する、それが街の特色になることにやりがいを感じます。建築というツールで、人々の喜怒哀楽が街に伝わり、その街の文化を生み出したい。それは私の意匠設計者としてのテーマの一つです。
島田
所属するDELは、設計経験に基づく技術やシミュレーションなどの先端の計算技術の援用によって、プロジェクトに対する設計検討や技術支援を行うチーム。私は主に、環境・構造のシミュレーションを用いた外装などの形状検討や技術支援を担当しています。複雑な形状を3Dモデルとしてつくることは単純ですが、実際の物として成り立たせるにはたくさんの課題があります。それらを乗り越え、現実に立ち上がっている建物を見るとやりがいを感じますね。

Theme 3

構造設計者と意匠設計者の連携についてお聞かせください。

重松
日建設計の中には個性的で魅力的な意匠設計者がたくさんいますが、構造に興味を持った意匠設計者も多いように思います。力の流れ方や構造計画の要点を伝えたときに、踏み込んだ質問や提案をしてきてくれると、計画がブラッシュアップされ、新しい提案に繋がったりすることもあります。また、構造・意匠それぞれ、お互いの設計の力点を共有した上で、専門を超えた踏み込んだコミュニケーションがよい建築に繋がっていると感じています。
島田
確かにそうですね。構造・意匠、それぞれに意思を持って、それらを共有しながら設計することが、全体がブレにくく芯のあるプロジェクトになると思います。実際に仕事の現場では、各担当外の範囲についても意見やアイデアを出し合っています。構造設計者はデザインや要望に柔軟対応しながらも、様々な制約のなか構造としてもチャレンジする設計を行い、意匠設計者はプロジェクトチーム全体のまとめ役をしつつ、設計の核となる考えを全体に共有しながら進めていますね。
風間
意匠設計者は、いろいろな調整や意見のすり合わせが必要になるため、デザイン力はもちろんですが、人間力が極めて大事なポイントだと思っています。やはり意匠設計者は、建築設計における要。意匠設計者がどう動くかで、周りのチームの力がどこまで発揮できるかが決まってくる部分もあり、我々構造設計者のアウトプットも変わってきます。また構造設計者も意匠設計者同様に、デザイン力、技術力に加え人間力が求められると思いますね。
畔見
構造設計者は幾何学を使って、複雑な形にルールを与えることで、実現可能にするという役割も担っていると思います。形を考える際、意匠では見え方や外形が重視されますが、構造では形のルールや位置の押さえ方が重視されるようにも感じます。そのような差異を認識しながら両者がコミュニケーションを重ねることで、設計がブラッシュアップされていくのだと思いますね。
三浦
構造設計はロジックが明確でありながら、当社の構造設計者は、意匠の曖昧さを寛容する余白、懐を持っている印象がありますね。意匠設計からの無理難題を一旦は受け入れて、挑戦しようとしてくれる。それは、それだけコミュニケーションを重ねることであり、それが構造と意匠の信頼関係を醸成していると思います。
野村
そうですね。構造設計者の方々は縁の下の力持ちという感じで、たまに攻めすぎてしまう意匠設計者を、論理を持ってバックアップしてくれる存在だと感じています。海外コンサルタントと共同する時に、構造設計者から論理的に話をしてもらうと納得してもらえることが多いのも、当社の構造設計の特徴の一つです。

Theme 4

デジタル化やグローバル展開について教えてください。

風間
日建設計は早い時期からデジタル化を進めてきましたが、節目となったのは、冒頭に三浦さんと野村さんがお話しした、大規模スタジアム新築プロジェクトへの参画だったと思います。デジタルデータを用いたモデリングやシミュレーションを多方面で活用したあのプロジェクトに加わったことで、当社のデジタル化は加速し、3Dモデルを活用したデジタルデザインが本格的にスタートしました。
重松
私も参加したプロジェクトでしたが、流線型の斬新で複雑な局面を持つ意匠であり、合理的な構造とするためにはどうすればいいか。それを検討するためには、デジタルデザインが不可欠だったと思います。端的に言えば、それは構造の「見える化」であり、その実現にために要請されたのが3Dモデルでした。
風間
従来、構造設計は平面+断面の2次元で検討しやり取りするのが一般的な世界でした。これを、3次元モデルを利用することで建築の初期段階から頭にイメージする構造計画を他者に対してもビジュアルに表現することが可能となり、新たなデザインの実現の可能性が広がったと思います。「構造の形」がモデルとして共有しやすくなったことで、意匠を支えるだけでなく、意匠と一緒になって初期段階から建物の形づくりに関わるなど、その役割も広がりつつあると思いますね。
畔見
構造関連のデジタルツールでは、当社には構造解析、最適化、3Dモデリング、BIMはそれぞれ専門チームがあります。複雑な形状を分析して構造的に成り立つか検証したり、また成立させるために新しい形状を見つけたり等々、構造設計でのデジタルツール活用は進んでいると思います。
島田
私が所属するDELだけでなくデジタル技術を活用するチームが多くあり、当社は先端技術にチャレンジできる環境があると思います。構造設計におけるデジタル化の進展も、そのような風土から生まれているのだと感じますね。意匠設計においてもデジタル化は進んでおり、私の業務でも3Dモデリング、シミュレーションなどのデジタル技術を駆使して取り組んでいます。
三浦
イタリアの事務所に在籍していたとき、意匠のイメージはすべて3Dでつくっていました。流暢でない言語で説明するよりもビジュアルで伝えた方が、理解が進むからです。したがって、グローバル展開とデジタル化はある意味密接な関係があり、デジタルでモデルを表現できるからこそ言語の壁を越えたグローバル展開を加速させることができると思っています。
野村
実際、構造設計の風間さんたちと取り組んだスペインのスタジアム改修設計は、その好例でした。ヨーロッパで1番大きなサッカースタジアムであるバルセロナのカンプ・ノウ。3Dモデルを活用して現地のアーキテクトとエンジニアとプロジェクトを進めました。現在グローバル推進は私のミッションの一つになっています。アジア圏では強い日建設計ですが、それ以外の地域においても積極的に新たな市場を開拓していきたいと考えています。

Theme 5

今後の構造設計の展望、デジタルが生む価値はどのようなものでしょうか。

野村
日建設計の構造設計者の方々は非常に経験豊富。だから、アドバイザー業務でも構わないので、海外案件でも、コンペティション後の設計段階でも、どんどん入ってきてもらえると心強いといつも感じています。国内外問わず、コンペティション等では、「自社内ですべてできます」というのが日建設計の強みとなります。これからはもっと世界へ向けてアピールしていくべきだと思いますね。
三浦
構造設計者としてだけでなく、構造家・構造デザイナーとして、他社から構造デザインを求められる人が多数出てきたら良いですね。また、言葉の議論ではなく3Dビジュアルで進めることが増えた現状で、意匠においても構造においても、今後はAIを使った先鋭化された言葉でのデザインが進んでいくと思っています。日建設計の人材によって、現状でも自分の能力を遥かに超えた仕事ができていますが、AIを駆使してさらに超えていければと思っています。
島田
ええ、三浦さんが言うように、AIなど最新技術の発展によりデジタルはさらに進展していくと思います。デジタルは、検討の効率化やイメージ共有の容易さ、実現可能性や正確性などの価値を生み出していると思いますが、今後日建設計としてどのような「価値」を見出し、高めていくべきかを考えていくことが重要だと考えています。
畔見
デジタル化の進展で、より複雑な条件をクリアできる合理的で美しく説得力のある構造設計が可能になると思います。3Dモデルもさらに高度化することで、従来見えなかった部分も見えるようになってきます。一方で、見える部分が増えるということは考える部分が格段に増えていくことになります。建築全体を見る視座を高めていく必要があると思いますね。
重松
別の視点で指摘すると、構造計画においては、建物の形やシステム、素材の合理性を追求することで、限られた地球資源の有効利用、環境建築に貢献することができると考えています。またデジタル化においては、より先端な技術として、構造最適化やフォームファインディングの技術を用いて合理的な形を求めるなど、構造設計は新たな建築表現と多様な構造の美しさを探求する次元へ進化していくと思いますね。
風間
世界を見てもデジタルデザインはどんどん広がって進んでいます。デジタルデータを使うことでデザイナーは想像する空間を自由に表現することができるようになっています。そういうデータの中で広がる自由な空間を、デジタルな技術を使いながらリアルな世界に落とし込んでいく作業もまた極めてクリエイティブ。デジタル+リアルを武器として、世界で戦えるエンジニアリング集団を目指していきたいと考えています。